川内停止要請、電力の安定供給を妨げるな
鹿児島県の三反園訓知事は、運転中の九州電力川内原発1、2号機(同県薩摩川内市)の一時停止と点検を九電に申し入れた。知事に原発の運転を止める法的権限はなく、異例の要請と言える。
知事選で公約に盛り込む
知事は要請書で「原発は絶対に事故を起こしてはならない」とした上で、4月の熊本地震で県民の不安が一層高まっていると指摘。川内原発を直ちに停止し、原子炉や使用済み燃料プールなど7項目を特に入念に点検するよう求めている。
だが熊本地震の際、観測された地震動は基準値を下回り、原子力規制委員会は運転を止める必要はないと判断した。また定期検査のため、川内1号機は10月、2号機は12月に停止する予定となっている。なぜ、これほど停止を急ぐのか疑問を持たざるを得ない。
三反園氏は、7月の知事選で川内原発の一時停止と点検を公約に掲げ初当選した。その背景には、新人候補一本化のため、反原発を掲げる平良行雄氏が立候補を見送る代わりに、三反園氏が公約に一時停止を盛り込んだ経緯がある。
しかし、知事には原発の運転を止める法的権限はない。川内原発が稼働しているのは、世界で最も厳しいとされる「新規制基準」に基づく規制委の安全審査に合格したからだ。伊藤祐一郎前知事や県議会、そして薩摩川内市の岩切秀雄市長や市議会も同意している。原発は電力の安定供給を担っている。それを妨げかねない要請を行うのはおかしい。
九電は即時停止には慎重な立場だが、懸念されるのは定期検査終了後の再稼働がスムーズにいくかどうかだ。政府は地元の理解を得ながら再稼働を進めるとしてきただけに、三反園氏が反対した場合、停止に追い込まれる恐れがある。
九電は2017年3月期に、川内原発の再稼働で年1000億円の利益の押し上げを見込んでいる。原発が停止すれば業績が悪化し、電気料金の上昇で利用者の負担増にもつながる。
今年3月には、関西電力高浜原発3、4号機(福井県高浜町)の安全性が確保されていないとして、大津地裁が運転差し止めを命じる仮処分決定を出した。裁判官や知事によって原発に関する判断が異なり、運転が左右されるようでは、政府が長期的なエネルギー戦略を策定することもできなくなろう。
福島第1原発の事故後、各地の原発が長期停止したため、現在は総発電量に占める火力の割合が9割に達する。燃料費が膨らんで電力会社の経営を圧迫するだけでなく、国際情勢の変化によって燃料供給が途絶える恐れもある。
このため、エネルギー密度が高く備蓄が容易な原発などの利用で、電源の多様化を図ることが不可欠だ。三反園氏には、総合的な判断を下すことが求められる。
九電は理解得る努力を
九電は、三反園氏が要請した避難計画への支援体制強化や情報発信の充実などには対応する構えだ。
地元の理解を得るための努力を積み重ねてほしい。