大震法見直しは減災に重点を置くべきだ


 政府の中央防災会議は、南海トラフ巨大地震の観測体制や防災対策について検討する。東海地震に備えた大規模地震対策特別措置法(大震法)は見直される見通しだ。

 東海地震予知が前提に

 1978年制定の大震法に基づき指定する「地震防災対策強化地域」は現在、東海地震で大きな被害が予測される自治体に限定されている。だが、静岡県沖の駿河湾から宮崎県沖の日向灘にかけて延びる南海トラフ付近で起きると予測されている巨大地震では、東海、東南海、南海の3地震が連動して発生し、西日本の広い範囲に被害が及ぶ恐れがある。

 この地震が起きる確率は今後30年間に60~70%とされ、最大32万人が死亡し、経済被害は220兆円に達すると推計されている。中央防災会議はワーキンググループ(WG)を設置し、対策強化地域の拡大などを検討する。今年度中に報告をまとめるという。

 一方、気象庁は東海地震を予知できる可能性のある唯一の地震と位置付けてきた。前兆現象を検出した場合は、大震法に基づき首相が警戒宣言を発令。対策強化地域では新幹線や高速道路がストップするほか、銀行の窓口業務も停止するなどの警戒態勢が敷かれる。

 しかし中央防災会議の調査部会は2013年、「確度の高い予測は困難」とする報告書をまとめた。同年に制定された南海トラフ地震対策特別措置法も、予知を前提とはしていない。

 国の試算では、警戒態勢による経済損失は1日当たり約1700億円に上る。確度の低い予知に基づく宣言で、社会や経済に混乱を引き起こしてはなるまい。WGでは警戒態勢に伴う規制を緩和する方向で議論する見込みだ。

 南海トラフ地震特措法に基づき、29都府県の707市町村が防災対策の推進地域に指定された。これらの地域では国の財政支援の下、建物の耐震化や津波避難対策を進めている。

 地震対策の重点を予知から減災に移すのは、現在の地震学のレベルを考えれば、やむを得ないだろう。大震法を見直すのであれば、南海トラフ地震特措法との整合性も問われよう。大震法廃止も含めて考えなければならない。

 南海トラフに限らず、日本ではどこに大地震が襲来してもおかしくない。今年4月の熊本地震では市庁舎などが被災した。地域の防災拠点の耐震化が十分か確認すべきだ。

 もっとも地震予知の確度を高められれば、それに越したことはない。具体的な地震対策とは別に、予知の研究を地道に進めていくことも欠かせない。

 緊急事態条項創設も課題

 参院選では、自民、公明の与党に憲法改正に前向きなおおさか維新の会と日本のこころを加え、改憲発議に必要な3分の2を確保できるかが焦点となっている。

 大規模な災害に政府が対応する上では、憲法の緊急事態条項創設も課題となる。首相の権限を一時的に強化するものだが、野党が「国民の権利を制限する」として反対するのは無責任ではないか。