国立西洋美術館、世界遺産登録で地域活性化を


 国連教育科学文化機関(ユネスコ)の諮問機関「国際記念物遺跡会議」(イコモス)は、このほど東京・上野の国立西洋美術館を含む7カ国17資産で構成される「ル・コルビュジエの建築作品」を世界文化遺産に登録するよう勧告。7月にトルコ・イスタンブールで開かれるユネスコ世界遺産委員会で正式登録される見通しとなった。

 日本の建築家に影響

 正式登録されれば、国内の世界文化遺産は昨年の「明治日本の産業革命遺産」に続き16件目、東京としては初めてとなる。

 ル・コルビュジエはスイスに生まれ、フランス・パリを拠点に活動して現代建築運動をリードした巨匠。ピロティ(支柱)、屋上庭園など五つの要素を「近代建築の五原則」として提唱。フランスのロンシャンの礼拝堂、インド・チャンディガールのキャピトル・コンプレックスなど数多くの建築物を造った。

 イコモスは勧告理由として「建築の歴史で初めての、半世紀以上にわたる地球規模での国際的な取り組みを示す」ことを挙げている。対象資産が東洋西洋、そして異なる大陸に存在するものは、これまで例がない。「人類の普遍的遺産」としての世界遺産の要件にかなうものと言えよう。

 ル・コルビュジエが日本で手掛けた作品は、1959年に造られた国立西洋美術館のみだ。だが、その建築思想は、同美術館の設計を支えた前川國男、坂倉準三、吉阪隆正ら3人の弟子をはじめ、丹下健三や安藤忠雄ら、日本を代表する建築家たちに大きな影響を与えた。

 「ル・コルビュジエの建築作品」として世界文化遺産に登録されることは、近代日本の建築史だけでなく、文化の受容と創造を考えるという点でも重要な意味がある。さまざまな企画展に訪れる人々の目は、展示作品や前庭に常設展示されたロダンの作品だけでなく、美術館自体にも集まることになるだろう。

 国立西洋美術館のある上野公園は、東京国立博物館や国立科学博物館、東京都美術館、東京文化会館などの文化施設が集中する。中でも東京国立博物館は、昭和初期の和洋折衷の建築様式、帝冠様式の代表作の一つであり、建築史を知る格好のエリアとしても注目されるだろう。さらにその近くの商店街・アメ横などがある。登録を機に、周辺地域の活性化につながることが期待される。

 イコモスは国立西洋美術館について「世界遺産登録を強く支持するなど、地元コミュニティーの積極的な参加が認められる」と評価している。過去2回登録勧告が見送られ、“三度目の正直”だっただけに、地元の喜びもひとしおだ。

 服部征夫・台東区長は「登録されれば、国際文化観光都市の台東区の魅力をより一層世界に発信できると確信している」と述べた。

 上野の魅力向上を期待

 2020年の東京五輪・パラリンピックを見据え、昨年9月に上野「文化の杜」新構想実行委員会が結成され、各施設の共通入場券の発行など新しい取り組みがなされている。上野が文化の発信拠点として、さらに魅力的になることを期待したい。