羽田耐震工事、許せぬ安全脅かすデータ改竄
羽田空港滑走路の耐震強化のための地盤改良工事で、東証1部上場の東亜建設工業(東京都新宿区)がデータを改竄(かいざん)し、仕様書通り施工できたかのように国土交通省に虚偽報告していた。メーカーやインフラ事業所の不祥事が相次ぐ中、企業の不正隠蔽(いんぺい)がまた露呈した。同省は、この企業に猛省を促すとともに、羽田空港の安全が脅かされないよう、実態調査と工事の完結を厳しく指導すべきだ。
不正情報の隠蔽続く
工事は大地震が起きた場合、羽田空港C滑走路の液状化を防ぐためで、東亜建設は地盤に薬液を注入する工事を担当。工期は昨年5月~今年3月までだった。しかし、薬液をパイプを通じて地中に注入しようとすると、コンクリート片などの障害物が多く、計測システムの精度も不十分で、薬液をほとんど通せなかった。その結果、本来注入すべき量約1300万㍑の5・4%しか入っていなかった。地盤強度は施工前とほとんど変わっておらず、驚くべき怠慢だ。
工事に取り掛かる前に、地盤や地中の状況について、当然、綿密な調査をし適当な工法を整えるべきだったが、それがなされていなかった。同社によると、虚偽報告は施工当時の東京支店長が指示。「自社で開発した工法を用いており、(注入の)失敗は許されなかった」などと説明している。
工事を始めた後で不具合が分かっても、引き返すことができず、不正に不正を重ねていたことになる。支店長の弁明には、土木作業などの公的事業を担うプロ意識、自覚すべき企業責務のかけらも見られない。この間、社内で不正情報が隠蔽され続け、発覚したのは下請け会社の通報によってだった。
同社は創業も古く歴史があり海外の事業も手掛ける中堅ゼネコンだ。猛省し、隠蔽体質の払拭(ふっしょく)を図らなければならない。同じ工法を使って福岡、松山両空港の滑走路の工事を担当しており、他にも不正がなかったか調査を進めるとしている。誠実な施工こそ、永い信用を築く。
一方、今回の不祥事に対し、国土交通省関東地方整備局は、C滑走路について、「通常の利用は構造上、問題がないことを確認したが、安全性について監視していく」と、同社に対し原因究明と是正工事を指示した。
しかし同省の地震が来なければ大丈夫だという見解は、いかがなものか。不正の事実をもっと深刻に受け止め、厳しく対処すべきだ。大地震はいつ起こるか分からないし、その影響は計り知れない。大地震で空港が使えなくなれば、救援活動や物資の輸送に支障が起こり、復興にさまざまな影響が出てこよう。
非常事態に大被害も
自然災害に対し、今、政府が最も優先して取り組んでいるテーマは、被害をできるだけ軽くする「減災」という考え方だ。そのため各種インフラ、公的機関、構造物の耐震化は、最も重要な地震対策となっている。耐震強度の信頼を損なう不正工事が目立つが、これでは、国民一丸となって進めるべく、災害対策の意気込みをくじきかねない。さらに非常事態には大きな被害をもたらしかねないことを肝に銘じるべきだ。