熊本地震の教訓、耐震化と地域力を高めよう
熊本地震の余震がまだ続いている。震度6強以上が4回に上り、有感地震が1300回を超えた。予想を超える規模で、直下型地震の恐ろしさを改めて見せつけている。
家屋倒壊で被害拡大
直下型地震を引き起こす活断層は、全国で2000カ所以上あるとされ、どこで発生しても不思議ではない。とりわけ首都直下の発生確率は30年以内で70%という高さだ。最悪の場合、死者は2万3000人、家屋倒壊は60万棟に上る。それだけに減災対策が急がれる。
最も必要なのは家屋の耐震化だ。熊本地震では約1万棟が倒壊の危険があると判定されている。1981年以前の旧耐震基準の家屋倒壊が目立った。死者の7割が家屋倒壊による圧迫死とみられる。阪神大震災(95年1月)でもほぼ同じ割合だった。
今回、火災発生は数件にとどまったが、阪神の場合は300件近く発生し、約7000棟が焼失した。倒壊家屋での電気ストーブや水槽ヒーターなど熱器具からの出火が多かった。首都直下では最悪約41万棟が焼失する。家屋倒壊を防ぐのが減災の要と心得たい。
全国の耐震化率は80%強にとどまり、1000万戸近くが無防備のままだ。東京都は「不燃化特区」の取り組みを進めるが、立ち退きや費用負担などがネックとなり、木造住宅密集(木密)地域の耐震化は容易でない。感震ブレーカー完備や耐震化率100%を目指すには助成の拡大など新たな仕組みが必要だ。
地域の減災力の向上も求められる。阪神大震災では町内会や自治会の活動が活発な地域で犠牲者が少なかった。日頃から住民同士の繋(つな)がりがあり、倒壊家屋に取り残された人たちを容易に探し出し救出できたからだ。避難生活でも震災関連死を防げた。熊本地震でもそうした例が見られた。
それでも瓦礫(がれき)を動かせずに涙を飲んだケースがあった。一方、長野北部地震(2014年11月)は農村部だったので、チェーンソーや農機具で救出でき、一人の死者も出さず「白馬の奇跡」と呼ばれた。
これに対して大都市部では近隣住民の繋がりが薄い。町内会や自治会の加入率が低く、活動を担う人材も不足し、防災組織が機能してないところが少なからずある。都では5年前からモデルとなる「防災隣組」づくりを進め、これまで200以上の団体を認証した。それでも都下に約9000の町内会・自治会があることを考えれば、緒に就いたばかりだ。こうした取り組みを一層進めたい。
高齢者など「災害弱者」への備えも怠れない。首都直下では道路が寸断され、発生から3日間は救急車が来ないと考えて対応する必要がある。医療と介護を包括する地域ケアシステムとの連動など工夫が望まれる。
憲法に緊急事態条項を
南海トラフ巨大地震では、死者は最悪32万人と推計されている。そのとき右往左往しないため憲法に緊急事態条項を設け、万全の備えをしておくべきだ。
熊本地震が現行法で対処できたので同条項は不要との意見が一部にあるが、大地震を甘く見過ぎだ。