武器輸出、自国防衛の観点でも重要だ
オーストラリアの次期潜水艦導入計画で、日独仏3カ国が争ったが、豪政府はフランス企業と共同開発する方針を決めた。今回の商戦は、安倍内閣下で武器輸出政策を変更して以来、初の大型商談である。
当初は日本有利と見られていただけに、ショックも大きいようだ。
豪潜水艦開発で日本落選
敗退原因についてはいろいろ取り上げられているが、日本からの導入に積極的な姿勢を見せていたアボット首相が、ターンブル現首相に交代したことが大きいとみられている。
外交では、対象国での日本に好意的な政治家だけでなく、それ以外の政治勢力とのパイプも同時に構築、維持しておくことが肝要である。これは武器輸出に限らず、外交上の鉄則であるが、日本外交はこの点で劣っているようだ。
日本政界の状況もマイナスに作用したと言える。普通の民需品と違って武器の場合は、サービスライフサイクルが終わるまで長期にわたって部品交換やオーバーホール等のメンテナンスが不可欠である。
日本の衆院選挙制度は小選挙区制を採用しており、少しの票の移動で政権交代が起こる。しかし、自民党以外で政権を担うよう期待されている民進党が、政策理念はもちろん防衛など基本政策も定かでない。長期のメンテナンスが必要な、そして自国の安全確保に関係がある武器の導入を躊躇(ちゅうちょ)されても仕方がなかろう。
また、日本製武器について性能評価が定まっていないことも不利な点である。ストックホルム国際平和研究所発行の『軍縮年鑑』の武器輸出統計には、日本製武器の輸出金額が掲載されている。だが、これは猟銃であって武器ないし兵器ではない。
我が国は長らく「武器輸出三原則」「新三原則」によって、事実上、武器輸出を行っていない。つまり、他の民需品と違って実績がないのだ。
一方、自衛隊装備の国産武器は「実験場内では高性能だが、国連平和維持活動(PKO)などで過酷な条件下で使用すると故障が起こりやすい」との声も聞かれる。
武器輸出は、内需不足を補う景気振興策が主眼ではない。武器輸出を感情的に捉え、「人殺しの武器を売らなくても、他に売れる商品はいくらでもある」と主張する向きがある。
しかし、武器輸出には多様な役割がある。周知のように、長年にわたる防衛費の削減によって、日本の武器生産企業は廃業の増加や生産設備の縮小が続いている。
これは潜在的な防衛力の減退を意味する。これでは有事に防衛力を強化しようとしても、急場に間に合わない。
“総合安全保障”のために
一方、武器を売るということは、友好の証でもある。武器を売らないということは、警戒心を持たれていることを意味する。ロシアはインドには自国軍向けと同性能の武器を輸出しているが、中国には性能を落として売却している。
“総合安全保障”とは国家の保有するいろんな能力を活用することを意味するのだ。