核抑止力の維持は必要だ


広島で先進7カ国(G7)による外相会合が開催され、核軍縮と核不拡散を訴える「広島宣言」を採択して閉幕した。

 注目されたのは、ケリー米国務長官が第2次世界大戦で原爆を投下した米国の閣僚として初めて広島市の平和記念公園を訪れ、オバマ米大統領にも広島を訪問するよう促す考えを明言したことだ。実現すれば日米和解の象徴的イベントとなろう。

 削減訴えた「広島宣言」

 「広島宣言」は、広島と長崎が原爆によって「極めて甚大な壊滅と非人間的な苦難という結末を経験した」と指摘し、世界規模での核兵器削減の努力を訴えた。

 だが忘れてならないのは、数十万の罪なき市民を殺傷する大量破壊兵器であるからこそ、核兵器は戦争を抑止する働きをしていることだ。核兵器がなければ、軍拡を続ける中国がその膨大な人口故に通常戦力で日本や欧米諸国に対して戦略的優位に立つことになろう。

 その意味で核兵器削減あるいは廃絶といっても、通常兵器を含む全体的な軍備のバランスを慎重に考慮することが必要だ。そうでないと逆に平和を危うくしよう。

 オバマ大統領が政権発足直後から「核なき世界」の理想を掲げる一方で「段階的な核軍縮」こそが唯一の現実的な選択という立場を取っているのもこのためだ。北朝鮮の核開発、中国の軍事的台頭、中東情勢の混迷といった厳しい世界の安全保障環境の中で、核廃絶を訴えたいが、同時に核抑止力は維持しなければならないというジレンマを西側諸国は抱えている。

 日本も同様だ。安保政策は米国の核抑止力に依存せざるを得ない。この現実を直視する必要がある。

 G7外相会合の最大の成果は「海洋安全保障に関する声明」で、名指しを避けながらも中国を念頭に「東シナ海や南シナ海の状況を懸念し、現状を変更する一方的行動に強い反対を表明」と明記したことだ。昨年のG7外相会合の文書よりも対中批判を強めた点が評価される。

 南シナ海で大規模な埋め立て工事や軍事拠点化を行っている中国に自制を要求したものだ。その上で、領有権をめぐる紛争の当事国は国際法に基づき、拘束力のある裁判所の決定を完全に履行するように求めた。

 中国は南シナ海で「九段線」を自国の境界として管轄権を主張している。しかし、こうした見解は国際法的な根拠の全くないものだ。「海の憲法」とも呼ばれる国際海洋法条約は、沿岸国の領海は海岸線から12カイリ(約22㌔)、漁業や資源開発などの権利がある排他的経済水域(EEZ)は200カイリ(約370㌔)と定めている。

 埋め立てについて海洋法条約は74条で、EEZの係争がある海域では境界画定の合意を危うくしたり妨げたりしないよう関係国に求めている。中国の埋め立てはこれに抵触しており、この点を強く主張すべきだ。

 結束示した意義大きい

 無法行為を繰り返す中国を抑止するため、G7の強い結束と決意を示した意義は大きい。今後も周辺国と連携し、中国への圧力を強めなければならない。