首都直下地震、帰宅困難者対策の強化を


 政府は首都直下地震に備え、救助や物資輸送などの応急対策を示した計画をまとめた。

 全国から自衛隊、消防、警察による広域応援部隊を東京、埼玉、千葉、神奈川の1都3県に最大約14万人派遣するなどの内容だ。発生から72時間を過ぎると厳しい状況に置かれた被災者の生存率が著しく低下するため、東京23区で震度6強以上の地震が起きた場合などは、被災地の要請を待たずに実施するとしている。

 最大14万人の応援部隊

 相模湾から房総半島沖の日本海溝に延びる「相模トラフ」沿いでは、1923年の関東大震災をはじめマグニチュード(M)8クラスの地震が200~400年間隔で発生。その間にM7クラスの地震が首都圏各地で複数起きている。

 現在、M7クラスの地震は30年以内の発生確率が70%、死者数は最大で約2万3000人に上ると想定されている。東京には政治・経済の中枢が集中するため、被害が大きければ日本全体に甚大な影響を及ぼす。

 特に被害額は95兆円に達し、日本の国内総生産(GDP)の2割が失われる深刻な打撃を受けるとされている。多くの人員を早急に派遣し、被害最小化を図るのは当然だ。

 計画ではこのほか、救援物資や燃料の緊急輸送ルートとして、東京外郭環状道路(外環道)や都心から放射状に伸びる8方向のルートを確保し、必要に応じて道路の応急復旧や交通規制を行う。がれきや放置車両などを迅速に撤去できる態勢が求められる。

 また帰宅困難者対策では、72時間は無理な帰宅を控え、最寄りの場所で待機するよう国民に要請する。巨大地震の発生直後に帰宅しようとするのは危険が大きく、救助活動にも支障を来しかねない。そのことを踏まえれば理解できる方針だ。

 首都直下地震の際に都内で発生する帰宅困難者は490万人に上るとみられる。このうち約90万人は職場などに泊まれない買い物客や観光客とされる。

 東日本大震災後、都内自治体は行き場のない帰宅困難者のために、民間企業との間で自社ビルを一時滞在施設として開放してもらう協定を結んできた。しかし1月時点で、公共施設を含めても25万5000人分しか確保できていない。

 背景には、余震などで避難者がけがをした場合、責任が施設所有者に生じることがある。政府は、民間がスムーズに協力できるように制度の見直しを急ぐべきだ。水や食料の備蓄も、民間の負担が重いようであれば、行政の支援も必要ではないか。混乱を避けるには、住民一人ひとりが家族と安否確認の方法を共有しておくなど日頃からの備えも欠かせない。

 火災対策も急がれる

 今回の計画は、首都直下地震が発生した時のものだが、事前の備えも重要だ。

 特に火災による死者が全体の7割に達すると想定されているため、木造住宅密集地域の住宅耐震化や強い揺れを感知すると電気を止める「感震ブレーカー」の設置を進めることが求められる。減災に向けた取り組みを急ぎたい。