人工知能、限界見極め使いこなす社会を


 「人工知能(AI)」とは、コンピューター上などに人間と同様の知能を実現させるための一連の基礎技術のことで、1956年の学術会議で命名された。以来技術開発が続き半世紀以上経つが、将棋や囲碁の実力では人間に追いついたようだ。

 囲碁で世界最強レベルの韓国人棋士、李セドル九段と、米グーグル社傘下企業が開発した囲碁の人工知能「アルファ碁」による5番勝負で、アルファ碁が4勝1敗と李九段を圧倒した。

労働力不足補う役割も

 囲碁はチェスや将棋に比べ局面の変化の数が桁違いに多く、AIが勝つのはこの先10年以上かかると言われていた。その予測を軽く覆したのは今回、アルファ碁が「深層学習」という最新手法を駆使したからだ。今まではデータの分析方法を予(あらかじ)め人が組み込んでいたが、深層学習はコンピューター自らがデータから特徴を突き止める。

 今回、この能力を囲碁の対局に応用した結果、盤面の各状況を見極め、勝利につながるベストチョイスに成功した。人間のように直感で状況を判断して打ち手を探る「大局観」をAIが身に付けたかに見える。

 当の韓国では、韓国日報が「全世界が衝撃を受け、一部には人間を超えた人工知能への恐怖感もある」と報道。一方、東亜日報は社説で「最終的にアルファ碁が勝ったとしても、やはり、ソフトを開発した人間の勝利という意味だ」と指摘した。AIのリスクを見据えつつ、上手に使いこなすことは可能だというメッセージであり、妥当な評価だ。人工知能と共存し、より豊かな社会を築くべきだ。

 政府は今年1月に閣議決定した第5期科学技術基本計画で、AIの研究開発強化を打ち出した。人工知能は画像検索などで既に実用化され、医療分野では、がん細胞の早期発見などに応用されている。さらなる技術開発で、日常生活に大きな変化を起こす可能性がある。

 日本の得意分野であるロボット技術に人工知能を組み合わせ、人口減による労働力不足を補う役割も期待できるが、留意すべき点もある。1990年代当初、ロボット先進国のわが国では、近い将来に家庭用ロボットが登場すると言われていた。

 しかし、これはまだ実現のメドが立っていない。いわゆるロボットの「安心・安全」について、社会的合意が不十分だからだ。人工知能の能力向上とともに、その安全性についての議論も大切だ。

 一方、米国ではグーグルやIBMなどが医薬品開発やビッグデータの解析などへの人工知能の応用でしのぎを削っている。それに対し、国内企業の動きが鈍いといった懸念もある。採算の見通しが不明確な事業への投資をなるべく抑えたいという日本企業の通弊の一つである。

官民一体で事業化を

 しかし、いったんその技術が有力となり、大手企業が手掛けると一挙にその方向が確立され、他産業も含め動き出すというのが特徴だ。今日の車の自動運転の開発事情などを見てもよく分かる。わが国では、官民一体となって技術開発の方向を見定め、産業化する体制を確立することが必要だ。