国と沖縄県和解、辺野古移設を遅らせるな


 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古移設をめぐる代執行訴訟で、国と県が和解した。これを踏まえ政府は移設工事を中止し、県側と協議に入る。だが、双方とも主張を変えたわけではない。今夏の沖縄県議選や参院選を控えての一時的な「政治休戦」とされる。

 地元は受け入れ表明

 だが、普天間飛行場の危険除去を遅らせてはならない。わが国を取り巻く安全保障環境は一段と厳しさを増している。移設問題を混迷させ平和を脅かすべきではない。

 これまで移設をめぐって国と県は訴訟合戦を繰り広げ、三つの裁判が進んでいる。これらを仕切り直し、国と県の協議の場を設け、政府が訴訟で撤回を求めた県の埋め立て承認取り消しについては改めて訴訟が提起され、双方ともその判決に従う。

 新たな協議では移設問題の原点に立ち返った論議が必要だ。日米両政府が1996年に普天間飛行場の返還に合意し、辺野古への移設計画を進めてきたのは、住宅街が迫る基地周辺の危険性を除去し、同時に日米同盟と抑止力を維持するためだ。

 この原点を反対派は置き去りにし、「新基地建設」のレッテル貼りで軍拡イメージを与え、共産党や社民党が中心となって「オール沖縄」と称し反米・反基地闘争に利用してきた。

 だが、辺野古移設と並行して基地縮小が大きく前進し、沖縄の負担は軽減する。返還後の再開発ビジョンには「ディズニーリゾート」の誘致構想もあり、沖縄経済の牽引(けんいん)役も担う。こうした理解が広がり、1月の宜野湾市長選挙では反対派候補が大差で敗北した。NHK出口調査では移設賛成が57%に上った。

 また辺野古のある北部地域は山林地が多く、産業が乏しいため都市の多い南部との格差が著しい。それで辺野古移設をテコに北部発展を図れるとの期待が強い。辺野古区は街づくり推進などを条件に移設受け入れを表明しており、名護漁協組合も圧倒的多数で埋め立てに同意している。

 そもそも当地にあるキャンプ・シュワブは1956年、地元の久志村(70年に名護町などと合併、名護市に)が一丸となって誘致したものだ。

 こうした「民意」を翁長雄志知事は真摯(しんし)に受け止めるべきだ。辺野古反対を「オール沖縄」と称する虚構はすでに崩壊している。和解を機に翁長知事は頑なな反対論から脱し、現実的な解決策に取り組む必要がある。

 東アジアの安保環境の変化も無視できない。中国は南シナ海で軍事基地化を進め、その矛先を沖縄県・尖閣諸島にも向けている。現在開催中の全人代では軍事予算が過去最高を更新した。海空軍を増強し、海洋進出を加速させるとしている。

 日米同盟強化が急務だ

 沖縄はわが国のシーレーン(海上交通路)の要衝を占め、160の島々を結べば本州の3分の2に匹敵する一大海洋圏を形成する。それだけに中国の海洋進出は現実的脅威と言ってよい。日米同盟の強化と抑止力の向上は焦眉の急だ。

 このことを国も県も留意すべきだ。今回の和解で辺野古移設を遅らせてはならない。