「慰安婦」合意、日韓関係前進の機運高めよ
いわゆる従軍慰安婦問題をめぐる昨年末の日韓両政府による合意について、韓国では左派系市民団体を中心に合意無効を訴える動きが執拗(しつよう)に続いている。
「慰安婦」合意を契機に、未来志向の日韓関係を築いていきたい日本としても憂慮すべき問題だ。
韓国左派系団体が反対
今月1日、韓国ソウルで日本植民地統治下で起きた独立運動を記念する「三・一節」に合わせ「慰安婦」合意反対の集会が開かれた。主催は複数の左派系市民団体で構成された「韓日日本軍慰安婦合意の無効と正しい解決のための全国行動」で、政府間合意を無視して自分たちの主張を通そうという強硬派だ。
これまで慰安婦問題で「反日」世論が圧倒的な韓国では、この種の集会に表立って異議を唱えることは皆無に近かった。ところが、この日は毎週、在ソウル日本大使館(現在、改築中)前に設置された慰安婦を象徴する少女像を囲み、同問題で日本政府批判の集会を主催している韓国挺身隊問題対策協議会(挺対協)を名指しで批判する集会や報道資料が相次いだ。
理由は、挺対協が純粋に慰安婦たちの名誉回復や補償獲得に専念しているとは思えないことだという。「元慰安婦を反政府闘争に政治的に悪用している」「韓国政府の対日政策に深刻な悪影響を及ぼしている」と指摘している。
実際、挺対協など「慰安婦」合意に反対する団体の主要メンバーには北朝鮮に融和的で過去に家族などがスパイの嫌疑で検挙された人物がいる。「反日」に同調しやすい世論やメディアを味方にできる慰安婦問題をテコに、政権に対する揺さぶりや日韓分断ともとれる運動に精を出しているとすれば決して看過できない問題だ。
これらの団体が元慰安婦に対し「慰安婦」合意の趣旨と意義を正しく説明しているかも疑問だ。日本大使館前の集会は、これ見よがしに高齢の元慰安婦を街頭に駆り出しているようにも映る。
近年は小中学生たちまで動員されるようになり、過激な文句を記したプラカードを掲げる児童もいる。闘争デモの犠牲になってはいないか。
幸い「慰安婦」合意を境に韓国政府の対日姿勢にはひと頃のようなとげとげしさは消えつつある。
朴槿恵大統領は「三・一節」を記念する行事で演説した際、対日関係の個所は例年になく短く批判も抑え気味で、多くを北朝鮮批判に割いた。尹炳世外相もスイス・ジュネーブでの国連人権理事会における演説で慰安婦問題に言及しなかった。
韓国では、今年度新学期から採用された小学校6年の社会科教科書(国定版)から「慰安婦」「性奴隷」の表現が削除され、慰安婦の写真掲載も見送られた。こうした傾向が続くよう期待したい。
履行の着実な進展を
日韓両国は今月末に米国で開かれる核安全保障サミットを利用した開催を調整中の日米韓首脳会談の場などで、「慰安婦」合意の意義を再確認し、その履行を着実に進めて未来志向を定着させねばならない。