初の人口減、「家族の価値」を問い直そう


 5年ごとに行われる国勢調査で初めて人口減が記録された。総務省が公表した2015年国勢調査の速報値によると、日本の総人口は約1億2711万人で、5年前の10年調査に比べて約95万人減った。調査が始まった1920(大正9)年以来、初めての減少だ。人口減対策は国民的課題だ。

 5年前と比べ95万人減

 総務省の人口推計では11年の東日本大震災以降、減少しており、速報値は想定内のものだ。とはいえ、減少幅は千葉市や北九州市の人口にほぼ匹敵する。そんな大都市が5年の間にそっくり消滅したことになる。死亡数が出生数を上回る「自然減」が要因だ。少子化の深刻さを改めて浮き彫りにしている。

 「団塊ジュニア」と呼ばれる第2次ベビーブーム世代が出産期を終えつつあり、今後さらなる人口減が予想される。手をこまねけば、60年には8600万人まで減り、国民生活が大きく揺らぐ。

 これに対して安倍晋三首相は「希望出生率1・8」の実現を掲げている。1月の施政方針演説では「1億総活躍の最も根源的な課題は、人口減少問題に立ち向かうこと」と述べ、子育て世代包括支援センターの全国展開や「待機児童ゼロ」の実現を目指すとしている。

 もとより子育て環境の改善は重要で、人口減の克服に取り組む姿勢は評価されてよい。だが、子育てに専念したい母親(専業主婦)を軽視していないか、気掛かりだ。

 政府の少子化対策は1994年のエンゼルプラン(子育て支援策)以来、さまざまな施策を実施してきたが、確たる成果を上げてこなかった。その理由は保育所作りなど「共働き」を前提とした支援策に偏ってきたからだ。

 わが国の女性の年齢別の労働力率は「M字カーブ」を示している。婚姻と出産で退職し、子育てが済むと再び仕事に就くのでM字になるが、これがまるで悪のように言われ、母親が出産・子育てに専念できる環境づくりが軽視されてきた。

 また伝統的な男女観や家族観を否定し、個人を絶対視するイデオロギー的主張に押され、専業主婦を敵視する「男女共同参画」策も少なからずあった。その延長線上の少子化対策なら前轍を踏むだけだろう。

 そもそも少子化の要因は子育て以前の非婚、晩婚化にある。30歳代前半の男性は半数近く、女性は3割が未婚だ。これでは子供は生まれてこない。若い人が当たり前のように結婚し、2人か3人か産み育てて「家族の絆」の中で幸福な生涯を送る。そんな社会を目指し、結婚と家族の意義を改めて問う時だ。

 法政大学の都道府県幸福度ランキング調査(11年)では、未婚率が低く、出生率が高い県の幸福度が高かった。1位だった福井県は、山形大学の都道府県別「子どもの貧困率」調査(12年)では貧困率が最も低かった。これらは家族が幸福の源泉であることを示している。

 少子化克服策の精査を

 国勢調査での初の人口減を踏まえ、少子化克服策を今一度、精査したい。何よりも婚姻と家族の価値を胸に刻みたい。