X線天文衛星「ひとみ」、宇宙の構造解明が楽しみだ
X線天文衛星「ひとみ(アストロH)」を搭載したH2Aロケット30号機が打ち上げられ、衛星は地球周回軌道に投入された。ひとみは「すざく」に次ぐ日本の6代目のX線天文衛星。銀河が多数集まった銀河団やブラックホール、超新星爆発の残骸などを観測し、宇宙の大規模な構造と進化の解明を目指す。格段に性能の向上した観測機器により、どんな宇宙の姿が明らかになるか楽しみだ。
感度高めた「ひとみ」
宇宙飛行士の口からたびたび出る言葉に「漆黒の宇宙」がある。その言葉から受けるイメージは暗く静かで冷たい宇宙だが、一方で星々が爆発、衝突し、突発現象を起こす高温、高エネルギーの“熱い宇宙”でもある。このような可視光では見えない熱い、そして激動に満ちた宇宙の姿をX線で観測するのがひとみである。
X線は地球の大気に吸収されて地上に到達できないため、X線天文衛星を宇宙に打ち上げる必要がある。
ひとみは、2005年に打ち上げたすざくの後継機で、米航空宇宙局(NASA)や世界各国の協力を得て開発した新世代のX線天文衛星である。高度約575㌔で地球を約96分で周回する円軌道を移動する。質量は2・7㌧。
4種類の新型観測システムを搭載し、感度はすざくの10~100倍と飛躍的に高まった。X線からガンマ線に及ぶ非常に広い波長域において、かつてないほどの高い感度で、80億光年先までもの遠方(過去)を観測できるようになった。
銀河の集団である銀河団の中に渦巻く、X線でしか観測できない数千万度の高温ガスの激しい動きの直接観測や、今まで感度が足りなくて観測できなかった生まれたての銀河の中心にある巨大ブラックホールなどの観測を行い、宇宙がどのように進化し、今ある宇宙の姿になったか、その謎に迫るのである。打ち上げ後は、公開天文台として開発チーム以外の広い分野の科学者にも門戸を開き、観測提案を受け付けるという。
つい最近、米国の研究チームが、アインシュタインが予言した重力波の直接観測に成功し、日本でも昨年ノーベル物理学賞を受賞した梶田隆章さんがプロジェクトリーダーを務める観測装置「KAGRA(かぐら)」が3月から試験運転、17年度から本格観測を行う。
こちらは宇宙誕生直後の姿やブラックホールの誕生の瞬間など、X線天文学とは別の視点から宇宙のさまざまな現象の解明を目指すもの。どちらも今後の成果に大いに期待したい。
ロケット開発も進めよ
三菱重工業によると、宇宙航空研究開発機構(JAXA)からH2Aと増強型のH2Bの製造、販売、打ち上げを移管されて以来、今回の打ち上げが20基目。打ち上げ成功率はH2Bを含め97%と世界トップクラスである。
同社はまた、H2Aの打ち上げ費用を半減するなどして国際競争力を高めた次期基幹ロケットH3について、20年度の初号機打ち上げを目指している。こちらも着実に開発を進めてもらいたい。
(2月19日付社説)