拉致調査中止、北朝鮮への妥協は禁物だ


 北朝鮮が日本と約束した日本人拉致被害者の再調査などを全面的に中止し、そのために立ち上げた「特別調査委員会」を解体すると発表した。日本政府による独自の対北制裁決定に対する報復で、日本政府は「織り込み済み」としているが、これで拉致問題をめぐる日朝交渉は振り出しに戻った。

日本の制裁決定に報復

 拉致再調査は2014年5月、日朝両政府がストックホルムで合意した。当時、日本ではこれを特筆大書したマスコミの影響でいよいよ拉致問題が解決に向けて動き出すとの期待が膨らんだ。だが、北朝鮮は約束を反故(ほご)にし再調査の報告をせず、特別調査委も看板だけの実態のないものであることが分かり、北朝鮮の誠意のなさに日本側は落胆した。

 一方で北朝鮮は、日本が事実上の交渉カードに使ったと思われる在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)の本部競売問題で最終的に本部を明け渡すという最悪の事態を免れることに成功した。拉致問題で日本を揺さぶり、実利を得たわけだ。

 そもそも拉致被害者らは外部との接触が徹底的に遮断され、特別な場所で管理されている可能性が高いと言われる。どこに誰がいるのか北朝鮮当局はすべて把握しているはずだ。

 それを「再調査」するため特別調査委を立ち上げるというのは一種の茶番だ。日本政府は騙(だま)されたふりをして交渉を進めたはずだ。北朝鮮との交渉には、そういう矛盾や難しさが伴う。

 しかし、評価できないのはカードだった本部競売問題で失態を見せたことだ。北朝鮮に圧力を掛け拉致被害者の救出につなげるはずが、納得のいく結果を引き出せないまま、いつの間にか朝鮮総連が本部に「居座り続ける」ことになった。

 今回の拉致調査中止をはじめ日本は北朝鮮の言動に一喜一憂する必要はない。横田めぐみさん=失踪当時(13)=の母、早紀江さんは北朝鮮の不誠実な態度にいら立ちを見せつつ「今の方法が駄目なら別の方法を取ることもできる」と述べた。

 日本政府が発表した独自制裁は北朝鮮籍を持つ人の入国を原則禁止にしたり、北朝鮮への送金・現金持ち出しで規制を強化したりするなどの内容だ。しかし核実験や長距離弾道ミサイル発射と同様、拉致問題は北朝鮮にとって重要事項であり、被害者を日本に帰国させるか否かはひとえに最高指導者・金正恩第1書記の腹一つだ。

 拉致を含め、北朝鮮の度重なる暴挙を許すことはできない。日本は米国や韓国と連携し、国連安保理での対北制裁決議採択に向けて尽力するとともに、拉致問題についても国際社会への発信を強化して北朝鮮への圧力を高めていく必要がある。

被害者全員の帰国を

 安倍晋三首相は拉致問題解決を政権の最重要課題と言い続け、国民の期待も高い。

 だが、北朝鮮への妥協は禁物だ。ストックホルム合意に基づく独自制裁の一部解除が、何の成果も上げなかったことを教訓としなければならない。今後も「対話と圧力」「行動対行動」の原則を貫いて被害者全員の帰国を実現すべきだ。

(2月14日付社説)