ジカ熱、封じ込めへ緊密な国際協力を
世界保健機関(WHO)は、ブラジルなど中南米を中心に流行している感染症「ジカ熱」について「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言した。妊婦の感染と、新生児の頭が先天的に小さくなる「小頭症」との関連が疑われているためだ。封じ込めに向け、緊密な国際協力が求められる。
「小頭症」と関連の恐れ
ジカ熱は、一昨年に日本国内でも流行したデング熱と同様に蚊が媒介する感染症だ。発熱や頭痛、筋肉痛などが生じるが、症状は軽く、感染しても気付かないこともある。人から人へは感染せず、ネッタイシマカや日本にも生息するヒトスジシマカがウイルスを媒介する。
問題は妊婦への影響だ。妊娠時の感染と新生児の脳の発育が不十分になる小頭症との関連が指摘されている。ブラジルでは2010~14年、小頭症の新生児が年間平均約160人だったのに対し、15年以降は3700人以上に疑いがあり、このうち270人はすでに小頭症と確認されている。中南米の中には、女性に妊娠を思いとどまるよう勧告している国もある。
このほか、両手足のしびれや力が入らなくなる神経障害「ギラン・バレー症候群」の原因になる疑いもある。有効なワクチンや抗ウイルス薬はなく、感染を防ぐには媒介する蚊に刺されないように肌の露出を避けるしかない。
WHOの緊急事態宣言は、西アフリカで猛威を振るったエボラ出血熱への対応で14年8月に出されて以来だ。感染が確認された国・地域は25に上り、ブラジルを中心に中南米で急速に増えているほか、米国や英国など欧米にも広がっている。感染者は最大400万人に達する恐れがあるという。国際社会は感染拡大の防止を急がなければならない。
ブラジルでは今年8月、リオデジャネイロ五輪が開かれる。多くの日本人が渡航すると予想されるが、政府は妊婦や妊娠予定の女性に流行国・地域への渡航や滞在を可能な限り控えるよう呼び掛けている。当然のことだ。今後も適切な情報発信が求められる。
厚生労働省は、患者を診察した医師に保健所への届け出を義務付ける「4類感染症」にジカ熱を指定する方針だ。日本では国内での発症例は報告されていないが、海外の渡航先で感染して帰国後に発症したケースが13年以降に3例ある。空港などでの実効性ある水際対策も欠かせない。
感染症拡大の背景には、人やモノが国境を越えて動くグローバル化や地球温暖化の進展がある。日本でのデング熱発生も、温暖化で蚊などの媒介生物の分布が広がったことがある。
安倍晋三首相は今年5月の伊勢志摩サミット(主要国首脳会議)で、感染症対策を議題にすると表明している。国内での対策とともに、海外での拡大防止に向けて支援を強化する必要がある。
日本も大きく貢献を
WHOはジカ熱について、長期的にはワクチン開発や治療法の研究も加速すべきだとしている。感染封じ込めや予防に日本も大きく貢献したい。
(2月3日付社説)