天皇、皇后両陛下フィリピン御訪問 心に刻まれた慰霊と親善


 天皇、皇后両陛下は、5日間にわたり国賓としてフィリピンを訪問された。晩餐(ばんさん)会でのスピーチ、そして日比両国戦没者の慰霊は、両国民の心に深く刻まれ、絆を強めるものとなった。

両陛下が54年ぶりに

 今回の御訪問は天皇、皇后両陛下にとって、皇太子御夫妻時代以来54年ぶり。今年が国交60年に当たるフィリピンとの友好親善が主な目的であったが、両陛下の強い御意向で戦没者への慰霊が日程に組み込まれた。サイパン、そして昨年のパラオに続く国外での慰霊である。

 先の大戦の激戦地であるフィリピンでは、約51万8000人の日本人が戦没した。日本から現地入りした元日本兵や遺族150人近くが見守る中、両陛下は、日本政府が建立した「比島戦没者の碑」に、日本から持ってこられた白菊の花束を供え、慰霊された。

 異国の戦場に散った英霊たちの御霊、元兵士、遺族の心が深く癒やされた瞬間であった。日本でテレビ中継を見た関係者、日本国民も深く心を揺さぶられたに違いない。現地には今も36万9000柱の日本兵の遺骨が残っている。収集の取り組みに弾みが付くことを期待したい。

 両陛下の鎮魂の祈りは、フィリピン人の戦没者にもささげられた。両陛下はマニラにある同国の英雄墓地を訪問され、「無名戦士の墓」の慰霊碑に供花し、深く頭を下げて2分近くにわたって黙祷(もくとう)された。

 大戦でのフィリピン人の犠牲者は110万人にも上る。アキノ大統領主催の晩餐会でのあいさつでも、天皇陛下は、多くの同国人が日米の戦闘に巻き込まれて犠牲となったことについて「私ども日本人が決して忘れてはならないことであり、この度の訪問においても、このことを深く心に置き、旅の日々を過ごすつもりでいます」と語られた。

 大戦で深い傷を負ったフィリピンの人々の心に寄り添われる両陛下のお気持ちは、そのお言葉と御活動で人々に届いたように思われる。

 フィリピンは、対日感情の極めて厳しい国だった。しかし、戦後の日本の償いの意味も込めた政府開発援助(ODA)、民間企業やNGOの努力で、世界有数の親日国となるに至った。

 忘れてならないのは、国交正常化する前の1953年、フィリピンの刑務所に収容されていた100人超の日本人戦犯全員を、キリノ大統領(当時)が釈放させた「許し」があったことだ。キリノ大統領は日本軍に妻子4人を殺されたにもかかわらず、恨みを許しに変えたのだ。

 両陛下は、日本大使公邸でのレセプションで、故キリノ大統領の孫娘2人と懇談された。天皇陛下は「日本の人たちは大統領に感謝しています。このことをあなたたちに伝えることができました」と感謝の言葉を述べられたという。

関係強化に不断の努力を

 国交60年目の年、両陛下の御訪問によって日比両国は心の絆をさらに深めることができた。自由と民主主義、人権尊重といった価値観を共有し、同じ島嶼(とうしょ)国である両国は、アジアの平和と安定のために協力関係を強めていくべきであり、そのための不断の努力が求められる。

(1月31日付社説)