成人の日、「古典」に人生の指針見つけよ


 きょうは成人の日。新成人の人口は男性が62万人、女性が59万人の計121万人(総務省推計)で、前年比では5万人少ない。大人になったことを自覚し、自ら生き抜こうとする若者たちを激励したい。

世界の秩序が不安定

 今の時代は、国際秩序が不安定化し、各国はかつてないほど大きな試練に直面している。過激派組織「イスラム国」(IS)によるテロ、米大統領選の混迷、中国の軍事的膨張の動き、欧州連合(EU)の難民流入問題などのニュースを見聞きしない日はないほどだ。

 また、国内では少子高齢化や経済のグローバル化が進んでいる。その影響が、君たちが住む地域社会でもいろいろな形で表れているはずだ。

 若者には若者の世界があり、同世代間の連帯がある。社会に出ても互いに切磋琢磨する中で自律的に成長していこうとする意欲が大きな力になることに変わりはない。

 ただ、成人すれば社会や国家とのつながりの中でそれなりの責任を負わなければならない。国内外の変化にも関心を持ってほしい。

 現代の世界は、政治や軍事面での課題は大きい一方、文化や科学などの分野では大きな可能性も開けている。

 例えば、京都大大学院生、木邑真理子さん(23)らの研究グループは、宇宙のブラックホールに近接する天体が突然明るくなる「アウトバースト」という現象中に、肉眼で見える光の瞬きを捉えることに初めて成功して注目された。これは木邑さんらが世界15カ国の専門家らに呼び掛け、35台の望遠鏡を駆使し確認されたものだ。

 これが若い研究者を中心になされたのは、本人の能力もあるが、それ以上に日本の国際的地位が安定し、世界の研究機関との関係が密になり、その連携もスムーズになってきたことが大きい。激動の世界でありながら、一つ一つの課題を克服していくための国際協力の素晴らしさを感じることができる。時代の転換期だと言えるだろう。

 こうした中で、ぜひ心の余裕を持ち、自分を見つめることができる人間になってほしい。それには「古典」をひもとくことを勧めたい。

 一例を挙げると「徒然草」。作者の吉田兼好は南北朝時代の動乱の中を生きた約700年前の人物だが、現代人がともすれば忘れがちになっている人間としての生き方を明確に示している。成功例だけでなく、失敗したことも包み隠さない。

 「道人は、遠く日月を惜しむべからず。ただ今の一念、むなしく過ぐる事を惜しむべし(遠い未来までの月日を惜しむべきでない。ただ今のこの一瞬を、空しく過ごすことを惜しむべきだ)」(第108段)などはよく知られる一節だ。

自信を持って前進を

 古典は明日即座に、また直接的に役立つものではないかもしれない。しかし、歴史の風雪に耐えた先人たちの歩み、生き方を学ぶことは、心の友を得ることでもある。変わらない人生の指針となる。古典を学びつつ、自信を持って実社会に進んでほしい。

(1月11日付社説)