平和貢献へ脱皮は欠かせぬ


憲法改正で国のビジョン遂行を

 来年のことを言えば鬼が笑う、という。だが、年明けて今年のことをあえて予測すれば鬼だって笑うどころか顔を引きつらせてしまうような厳しい世界の情勢ではないか。

 IS、中国の動向がカギ

 イスラム過激派「イスラム国(IS)」は、昨年11月のパリ同時多発テロにみられるように域外諸国へとその魔手を伸ばそうとしている。米国では「9・11」本土テロの悪夢を繰り返すまいと、イスラム過激派への緊張感は高まるばかりだ。

 今秋の米大統領選挙で現在共和党候補のトップを走るトランプ氏が「イスラム教徒の米入国阻止」と叫んで、「差別的」と猛反発を受けた。だが、支持率には影響せず、米国民の強い懸念を如実に示している。

 一方、アジアに目を転ずれば、南シナ海・南沙諸島における3000㍍級滑走路建設など中国の軍事的膨張が周辺諸国の重大な懸念材料となっている。わが国にとっても必須のシーレーン(海上交通路)であり座視できない事態だ。南シナ海は「年間5兆㌦の貨物」(ロイター)が往来する。

 中国が同海域に進出したのは長期的戦略の下である。「太平洋の米中分割論」を説き、13年に習近平国家主席が訪米でオバマ大統領に同趣旨の発言をしてこれを踏襲している。この時のオバマ大統領のあいまいな対応によって南シナ海の軍事施設拡張に拍車が掛かったわけで、米海軍の自由航行作戦も遅きに失したといえよう。

 国連の宗教会議構想

 こうみると今年もISと中国の二つの動向がキーワードだろう。ISに対しては空爆をはじめとした軍事攻撃も決め手を欠いている。問題はISに同調する単独テロリストが呼応して各地でテロを計画していることにある。「国境なきテロ集団」にも似た状況と化し、今年5月の伊勢志摩サミットも警備の最大課題だ。

 IS対策は情報収集が大きなカギであり、その拠点を封じることは重要だが、長期的にはISの軍事・経済・思想的基盤をどう崩していくかであろう。その背景には根深い宗教間宗派間の対立がある。宗教指導者たちが世俗的な政治指導者とはまた違った観点からこの問題に取り組む本格的な協議の場が必要といえる。かつてイスラエルのペレス前大統領がローマ法王との会談で「国連形式の宗教組織」の創設を提案したが、国連改革の一環として真剣に検討すべきではないか。

 もう一つの中国。わが国の付き合い方として、昨年成立した安保法制は大きな前進だった。限定的にせよ集団的自衛権の行使容認はわが国の安全保障の根幹たる日米安保体制の信頼性、実効性を大きく高めた。ただ留意すべきは、中国を敵視するのではなく、中国が力の論理で国際法を脅かす動きに出た場合は、これに対して米国はじめ国際社会と連携して実効的な対応ができるよう「抑止力」をつけるということだ。

 一方で民主党は4日から始まる通常国会で、安保法制の廃棄を目指すという。民主党政権時代の国力沈滞をどう教訓としているか疑わしい対応だ。日本共産党が「国民連合政府」構想で安保法制廃棄の野党連合を画策しているが、これに安易に乗るようでは到底政権を目指す党たり得ない。日本が変わらずに平和を享受して生き残るためにはどうすべきか、それが問われている。

 いずれにせよ、わが国は先の大戦で国際社会から孤立して戦争の道へと突き進んだ。今度は、「一国平和主義」を奉じて自らの役割と任務を放棄、軽視するようでは再び国際社会からの孤立化を招きかねない。安保法制に伴う世界平和構築への積極貢献は、困難ではあるがわが国が進むべき基本針路といえよう。

 安倍晋三首相は、集団的自衛権という戦後安保政策のタブーの一つを乗り越え、日米安保体制に新たな一ページを加えた。次いで隣国の重要国・韓国との関係改善に本格的に動いたのは地域の平和構築を確固たるものにしていく上で当然だった。「慰安婦問題」の合意はそうした視点から、日韓米の安保再構築への大きなステップとしたい。

 「家庭」再建で国力充実

 次の安倍首相のハードルは憲法改正だ。「国のかたち」をどう描くか。外への安全保障だけでなく足元の社会の基盤たる「家庭」をどう再建し、経済再生を国力の充実につなげるか。政府が掲げる「50年後も人口1億人維持」に向け果断な実行が求められている。
(1月1日付社説)