H2Aロケット、打ち上げビジネスの扉開く
カナダの商業衛星を搭載したH2Aロケット29号機で打ち上げの4時間後、衛星を無事目標の軌道に投入した。国産ロケットによる商業衛星の打ち上げは初めてである。
29号機は衛星の静止軌道への移動負担を軽減する第2段ロケットの改良を初めて導入。衛星打ち上げビジネスの扉を開いた。国際市場での競争は厳しいが、たゆまぬ努力と信頼を重ね、実績を積み上げてほしい。
衛星の移動負担を軽減
29号機が打ち上げた商業衛星は、三菱重工業が2013年9月にカナダの衛星運用大手テレサット社から初めて受注した通信放送衛星「テルスター12V」で、高度約3万6000㌔の静止軌道で運用される。
三菱重工はこれまで外国の衛星としては韓国の「アリラン3号」を12年5月に打ち上げたことがあるが、韓国航空宇宙研究院という政府系機関からの受注で、国内の衛星も官需が主体。民間企業の商業衛星打ち上げは今回が初めてである。
29号機は今回、打ち上げ後すぐには衛星を分離せず、ロケットの2段目エンジンを3回噴射して静止軌道により近い位置で分離。これにより、衛星の搭載燃料を節約するなどの改良を施した。
緯度の高い種子島で打ち上げるH2Aは、赤道直下で打ち上げる欧州のアリアン5ロケットなどと比べ、分離後に衛星が軌道に入るまでの燃料消費が多く、受注競争で不利になっていたからである。
今回の打ち上げで、H2Aは7号機から23機連続の成功で、成功率は96・6%。世界でもトップクラスである。初の商業衛星打ち上げ成功を機に、三菱重工は海外からの受注に弾みを付けたい考えである。
同社が扉を開いた衛星打ち上げビジネスはもちろん、たやすい環境ではない。現在、先行する欧州宇宙大手のアリアンスペース社を、新興勢力の米民間宇宙企業のスペースX社が低価格を武器に激しく追い上げる構図になっている。
年間20~30機の商業衛星を、欧米の競合他社が年間6~10機のロケットで安定的に打ち上げているのである。
これに対し、三菱重工はこれまで情報収集衛星など官需が中心で、打ち上げ回数も10年から13年は年間2~3機と採算割れが続いた。14年、15年は採算ぎりぎりの4機を何とか確保しているという状況である。
それだけに、今回の商業衛星打ち上げ成功は、これまで苦戦してきた市場参入に向け、大きな足掛かりになるものと期待される。ただ今後、通信放送衛星など商業衛星の受注を増やして収益を安定させるには、現在約100億円と言われる打ち上げコストを引き下げる努力が欠かせない。
当面は引き続き官需も
H2Aの後継として20年度の初打ち上げを目指して開発中の新型ロケット「H3」は約50億円と半減させる計画だが、アリアンスペース社も次世代ロケット「アリアン6」で製造コスト半減を目指しているという。政府としても、当面は引き続き官需で打ち上げ回数を安定させることで後押ししたい。
(11月27日付社説)