露ドーピング問題、ウミを徹底的に洗い出せ
世界のスポーツ界を大きく揺るがせたロシア陸上界の組織的ドーピング問題は、国際陸上競技連盟(IAAF)がロシア陸上競技連盟(ARAF)に暫定的資格停止処分を下すという事態を招いた。
国家機関ぐるみと言われる旧ソ連時代からの露スポーツ界の積年のウミを徹底的に洗い出すべきだ。
組織的な反倫理行為
IAAFは緊急理事会でARAFに対する暫定的な資格停止処分を決めた。薬物違反による各国・地域連盟への資格停止処分は初めてだ。処分は即有効で、これによってARAFに加盟する選手は国際大会に出場できなくなった。来年のリオデジャネイロ夏季五輪に参加できない恐れもある。
露スポーツ省は急遽(きゅうきょ)、ARAFの組織改革を3カ月以内に行う方針を明らかにし、露オリンピック委員会(ROC)もARAFの改革を主導するとの声明を発表した。だが、ロシア側が違反選手リストを提出し、新たな検査態勢を講じるまで処分は解除されない。
問題の発端は、ドイツ公共放送局の西ドイツ放送(WDR)が作成したドキュメンタリー「極秘ドーピング・いかにロシアは勝者を作るか」であった。スポーツを国威発揚の有力な手段と考えるロシアが、政府関係者も関与して組織的なドーピングをアスリートに行わせ、多数のメダルを獲得しているという内容だった。
ドキュメント放映後、世界反ドーピング機関(WADA)の第三者委員会はロシアのスポーツ界における不正の調査に着手。公表された335㌻にも及ぶ調査報告書は「ロシアの陸上界には倫理に反する行為が常態化している」と断じ、スポーツ大国が組織的に行ってきた深刻で根深いドーピング汚染の実態を暴き出した。
報告書は、2012年夏のロンドン五輪女子800㍍金メダルのマリヤ・サビノワ選手、銅メダルのエカテリーナ・ポイストゴワ選手ら5選手の永久資格停止を求めたほか、ビタリー・ムトコ・スポーツ相ら政府のドーピングへの関与も示唆。同国の反ドーピング機関(RUSADA)と検査機関に圧力をかけ、検体を操作してドーピングを隠蔽(いんぺい)するよう指示したことや、検査機関担当者が計1417点の検体を破壊したこと、そして治安機関の連邦保安局(FSB)の関与も明らかにした。
ロシアのプーチン大統領は「この問題はロシアにのみ存在するものではないが、外国の仲間が疑いを持っているのであれば、我々はそれに答えなければならない」と語った。さらに「もし誰かがドーピングのルールを犯したとすれば、その責任は個人にある。ドーピングに関わりのない選手は、罪を犯した者のために犠牲を払うべきではない」と付け加えた。
抜本的な体質改善を
ウクライナ危機以後の国際的な孤立に加え、スポーツの分野でも孤立に直面することは何とか避けたい意図がうかがえる。しかし「個人の責任」で済む話なのか。ロシアはスポーツによる国威発揚に手段を選ばない体質を抜本的に改善すべきだ。
(11月21日付社説)