マンション傾斜問題、信頼裏切った責任は重い
横浜市都筑区の大型マンションが傾いた問題で、基礎工事での杭打ちのデータが改竄(かいざん)されていた。住民の信頼を裏切った責任は重い。
基礎工事のデータを改竄
このマンションの工事元請けは三井住友建設で、実際に杭打ちを行ったのは旭化成建材だ。マンションでは4棟のうち1棟で、両端の高さが最大2・4㌢ずれていた。6本の杭が支持層と呼ばれる固い地盤に届かず、2本が支持層に届いているものの、打ち込み不足と推定されるという。
基礎工事では、杭を打つ穴が支持層に達しているかどうかのデータが改竄されていた。杭打ちのほか、杭の先端部を固めるセメント量のデータでも改竄があった。
傾いた棟では52本の杭のうち、杭打ち10本、セメント量4本の計14本で不正が発見され、他の棟も合わせると不正件数は83件に上る。住民に対する背信行為だと言わざるを得ない。
マンションやビルなどを建てる際には、建築基準法などに違反していないかどうかの検査が自治体や民間の指定確認検査機関によって行われる。だが、こうした検査でも事業主側の設計士が作成した報告書や外観を確認するだけで、結局は施工業者を信頼せざるを得ないのが現状だという。ましてや住民がマンション購入の際、今回のような不良物件を見抜くことは困難だ。その意味で、旭化成建材などの責任は重い。
国土交通省は三井住友建設や旭化成建材などについて、建設業法に基づく行政処分を視野に調査を始めた。不正が組織ぐるみだったかどうかを含め、全容を徹底的に解明し、責任の所在を明確にしなければならない。
旭化成建材の親会社である旭化成の浅野敏雄社長は、建物の調査と改修工事の費用を全額負担する考えを示した。マンション住民は不安を募らせている。最大限配慮し、真摯(しんし)に対応する必要がある。
マンションは通常、事業主の不動産会社が宅地開発を企画。工事を発注された建設会社が施工主となり、基礎工事や壁の建て付けなどを担当業務ごとに下請け業者へ割り振る。建物の傾きなどの品質問題が判明した場合、事業者間の契約などに基づき責任の度合いを個別に議論することになる。
こうしたケースは今回だけではない。2014年6月には、住友不動産が横浜市で分譲販売したマンションの1棟(約60戸)で、建物を支える杭が強固な地盤に達せず、建物が傾いていたことが発覚した。
住友不は住民に「仮住まいの提供」「補修・是正工事」「買い取り補償」を提示。住民は既にマンションを退去し、補償内容などについて住友不と協議を続けている。建設業界で工期やコスト削減を優先するあまり、安全が後回しにされるような傾向が強まっているとすれば看過できない。
迅速な調査結果公表を
旭化成は現在、他のマンションや商業施設の基礎工事でも不正行為がなかったか、約3000棟の調査を進めている。できる限り早く調査結果を公表し、信頼回復に努めるべきだ。
(10月21日付社説)