世界記憶遺産、認められぬ中国の“反日”登録


 国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界記憶遺産に、中国が申請した南京事件の資料が登録された。

 だが南京事件に関しては犠牲者数などに諸説があり、今回の資料が記憶遺産にふさわしいか疑問だ。ユネスコの「お墨付き」を得た中国が、日本の「負の歴史」の宣伝を強化することが懸念される。

 南京事件の判決書など

 資料には、日中戦争中に発生した南京事件について、戦後に南京軍事法廷が日本人戦犯を裁いた判決書などが含まれる。判決書には犠牲者が「30万人以上」と記されている。

 一方、日本政府は「犠牲者数は諸説あり、確定していない」との立場だ。資料について、川村泰久外務報道官は発表した談話の中で「完全性や真正性に問題があることは明らかだ」と指摘した。

 記憶遺産は歴史的な文書や絵画、音楽、映画などを保存し、後世に伝えることを目的にユネスコが1992年から始めた事業だ。これまで「アンネの日記」や「マグナカルタ(大憲章)」などが登録されている。中国が今回、日本を貶めるために政治利用したのだとすれば、到底容認できない。

 また、ユネスコの審査の在り方にも問題がある。記憶遺産は文書保存などの専門家14人でつくる国際諮問委員会が審査している。しかし歴史学者が含まれていないため、南京事件の資料について適切に判断できたのか疑問が残る。審査が非公開なので日本が異議を申し立てることもできなかった。

 資料の記憶遺産登録を受け、政府はユネスコに対する分担金の拠出停止の検討に入った。日本は2014年度、10%強に相当する約37億円を出している。だが、こうしたやり方は感心できない。

 もちろん中国のような政治利用があってはならないが、世界には記憶遺産に登録されるべき貴重な資料がまだたくさんあるはずだ。こうした事業を支援することは、日本の重要な国際貢献の一つとも言えよう。まずはユネスコに、南京事件資料の登録撤回と記憶遺産の審査方法の改善を求めるべきだ。

 日本からは今回、第2次世界大戦後のシベリア抑留者に関する資料「舞鶴への生還」(京都府舞鶴市申請)と、政府推薦の国宝「東寺百合文書」の2件が登録された。

 シベリア抑留資料は、舞鶴港に帰還した抑留者の手記など570点。抑留中の生活や心情をシラカバの樹皮にすすで作ったインクでつづった「白樺日誌」などが含まれる。

 東寺百合文書は8~18世紀の約1000年間にわたる約2万5000点もの古文書群。足利義満の直筆や織田信長の書状もあり、日本では1997年に国宝に指定された。記憶遺産登録によって、人類全体の貴重な財産となった。

 「世論戦」への備えを

 中国は日本の負のイメージを国際社会に植え付けるためには手段を選ばないつもりなのだろう。日本は中国の一方的な主張に対してはきちんと反論するとともに、中国の「世論戦」に対する備えを強める必要がある。

(10月14日付社説)