ノーベル賞、地道な研究努力が花開いた
今年のノーベル医学生理学賞の受賞者に大村智・北里大特別栄誉教授(80)、物理学賞に梶田隆章・東京大宇宙線研究所長(56)らが決まった。
日本人の医学生理学賞受賞は3年前の山中伸弥・京都大教授以来で3人目、物理学賞は昨年の青色発光ダイオード(LED)開発者の3人に続き2年連続となった。日本人の業績を大いに誇りたい。
共に共同研究の成果
大村氏は長年、微生物が作る有用な化合物を探求し、アフリカや中南米の寄生虫病特効薬の開発に貢献。中でも1979年に発見した「エバーメクチン」は、人間に有害な線虫などの神経系を麻痺させる特性があり、熱帯域に住む10億人もの人々を救う特効薬へとつながった。
北里研究所の室長として大村氏が微生物の探究を始めたのは73年。今でこそ、微生物が作る有用物質を抽出し、大量に培養して創薬に生かす方法が一般化し、世界中の多くの製薬会社や研究機関などが多額の資金の投入を図って成果を競うようになっている。
しかし当時は、自ら各地の土壌を集め、薬に使えそうな物質を作り出す微生物がいないかを調べる基礎研究の段階だった。「失敗が当たり前」と地道に研究を続けた科学者としての謙虚な姿勢が、後の輝かしい実績を生み出すことにつながった。
一方、梶田氏は物理学者で天文学者。物質の基本単位である素粒子の中でも、最も微細な粒子の一つ、ニュートリノの研究を手掛けた。受賞理由は「ニュートリノ振動の発見」で、質量の有無を確認できなかったニュートリノに質量があることを実証した功績が評価された。
梶田氏は岐阜県神岡町(現・飛騨市)にあるニュートリノの観測装置カミオカンデで観測を始め、その後、容積が15倍大きいスーパーカミオカンデが96年に完成し、観測データが飛躍的に増大。大気中にあるニュートリノを観測し、成果を得た。
大村氏は一昨日の会見で「共同研究、チームワークを必要とする研究は、日本人の得意とするところではないか」と述べた。大村氏と分野は違うが、梶田氏の発見も、巨大装置を管理して粒子を追跡する手法で、グループによる研究の賜物と言え、チームワークの良さが欠かせなかった。共同研究が得意な日本人の特性を今後も生かしたい。
一方、同賞受賞者の大半がそうであるように、大村氏も米国留学で実力を養った。米国の大学や研究機関は、単に研究レベルが高いというだけでなく、世界的な研究者と接する場が多く持てる。大村氏も彼らと交わり、その後の研究テーマについて多くの示唆を得たという。
研究に中長期的展望を
これはわが国の研究体制が不十分であることを示している。体制の質・量とものレベルアップのためにはさらなる予算投入が必要だ。
しかし、それだけではなく、世界にない実験施設の建設や独自の研究テーマを掲げる工夫がもっとなければ、国際的な人材、有名な科学者を集めることはできない。日本を魅力的な研究の場にするための確かな中長期的展望が要る。
(10月7日付社説)