スポーツ庁発足、選手強化で五輪へ期待高めよ


 国のスポーツ施策の司令塔機能を担う「スポーツ庁」が発足し、初代長官に1988年ソウル五輪100㍍背泳ぎ金メダリストの鈴木大地氏が就任した。

 スポーツ庁は2020年東京五輪・パラリンピックに向けた選手強化などに取り組む。東京大会への国民の期待を高めるには、選手たちの国際大会での活躍が不可欠だ。

 初代長官に鈴木大地氏

 東京五輪をめぐっては、メーン会場となる新国立競技場の建設計画や大会エンブレムが相次いで白紙撤回された。こうした不手際で、国民の関心は低下している。

 運営側がイメージ回復に全力を挙げるのはもちろんだが、五輪の主役は何と言っても選手たちだ。その強化策が大きな課題となる。

 鈴木氏は五輪金メダリストとしての高い知名度と、日本水泳連盟会長として決算をわずか1年で黒字へ転化したマネジメント能力などが評価され、長官に起用された。選手たちが存分に力を発揮できるような施策の実現に努めてほしい。

 就任記者会見で、鈴木氏は東京五輪の目標として「これまで夏季五輪での金メダルは最高16個だったが、それを上回らないといけない」と述べ、史上最多の金メダル獲得を目指す考えを示した。そのためには、まず来年のリオデジャネイロ五輪をはじめとする国際大会で好成績を残し、国民の期待を高めることが求められよう。

 文部科学省は16年度予算概算要求に、スポーツ関連予算として過去最高の367億円を計上した。このうち、選手強化などの支援は103億円に上る。ただ、多くの金メダル獲得を狙うのであれば、有望な競技を選んで強化予算を集中させることが必要だ。

 東京五輪の追加競技として、大会組織委員会は野球・ソフトボールや空手など5競技18種目を国際オリンピック委員会(IOC)に提案する。金メダル目標の達成には、出身競技や組織のしがらみなどにとらわれてはなるまい。

 スポーツ庁は今年5月に関連法が成立し、文科省の外局として新設された。国のスポーツ行政の縦割り解消が狙いだが、各省庁の強い抵抗で、厚生労働省所管の障害者スポーツ行政を除く権限や財源の移管は見送られた。司令塔機能をどこまで発揮できるかが課題だ。鈴木氏の指導力が問われる。

 選手強化のほか、スポーツ庁の大きな役割として挙げられるのが、スポーツを通じた国民の健康増進だ。鈴木氏は「年間40兆円の医療費を中長期的に軽減するための施策を展開したい」と述べた。

 大会後見据えた施策も

 医療費抑制には、介護を受けずに日常生活を送れる期間を示す「健康寿命」を延ばすことが求められる。そのためにスポーツの果たすべき役割は大きい。

 11年に成立したスポーツ基本法は、スポーツについて「地域の一体感や活力を醸成するものであり、人間関係の希薄化等の問題を抱える地域社会の再生に寄与する」としている。「五輪後」を見据えたスポーツ施策の推進も必要だ。

(10月2日付社説)