五輪エンブレム、使用中止の判断は当然だ
2020年東京五輪・パラリンピック組織委員会は、アートディレクターの佐野研二郎氏がデザインした公式エンブレムの使用中止を正式に決めた。
盗作疑惑招いたデザイン
佐野氏のデザインは昨年11月の審査委員会で「大会ビジョンに沿うこと」「会場装飾やグッズ類、デジタルメディアへの展開力」などを条件に104作品の中から選ばれた。その後の修正を経て今年7月に発表された。
ところがその直後、ベルギーのリエージュ劇場のロゴに似ているとの指摘を受けた。劇場ロゴをデザインしたオリビエ・トビ氏側は、著作権を侵害されたとして国際オリンピック委員会(IOC)を提訴する事態となっていた。
今回の決定について、組織委の武藤敏郎事務総長は「エンブレムはベルギーのマークと異なるものだが、使い続けることに国民の理解が得られない」と述べた。実際に盗作であるかどうかはともかく、このような疑惑を招いたエンブレムを存続させることは難しい。日本の信用にも関わることであり、使用中止の判断は当然だと言える。
組織委は、佐野氏が作成した空港などでの活用例の写真についても無断流用が指摘されたため、本人に事情を聞いたところ、エンブレムの盗用は否定したものの、活用例は流用を認めたという。
佐野氏は「公開前に権利者の了解を得るのを怠った」と述べたとされるが、国家の威信が懸かった五輪のエンブレムに関することであり、あまりにも軽率だと言わざるを得ない。
佐野氏についてはエンブレム発表後、デザインしたビール会社のキャンペーン賞品の一部に模倣があったことも発覚している。今回の件に関しても明確な説明が求められよう。
問題は、なぜ使用中止の決定が遅れたかだ。五輪のエンブレムは、全ての国民に愛されるものでなければならない。盗作の疑惑が持ち上がった時点で、判断できなかったのだろうか。その意味では、組織委にも混乱を招いた責任がある。
組織委は新しいエンブレムを改めて公募して選ぶ方針だ。盗作疑惑を招くような作品を選ばないためにも、今回の問題について検証を徹底し、類似のデザインがないかチェックできる体制を整える必要がある。
新国立競技場の整備計画見直しなどもあって、2年前に東京招致が決まった際の国民の高揚感は消えつつある。しかし、東日本大震災から復興した姿を示すには五輪は絶好の機会だ。来日する外国人に、日本人の「おもてなし」の心を伝え、日本のファンになってもらうことにも大きな意義がある。
何よりも五輪の成功は、国民が一体感を醸成し、日本の国際社会での存在感を高めていくことにつながる。その意味でも、五輪の準備や運営に万全を期さなければならない。
関係者は気を引き締めよ
東京五輪への出場を目指して汗を流す選手や、観戦を楽しみにしている子供も多いだろう。その夢をしぼませるようなことがあってはならない。関係者は気を引き締めて準備に力を入れてほしい。
(9月2日付社説)