感染症研究施設、期待される速やかな対応


 エボラウイルスなど最も危険度が高い病原体を扱える国立感染症研究所村山庁舎(東京都武蔵村山市)の「BSL4」施設について、同市の藤野勝市長は塩崎恭久厚生労働相に稼働を容認する考えを伝えた。

最も危険な病原体扱う

 有効な治療法がなく、致死率の高いエボラ出血熱など6種類のウイルスは、BSL4施設でなければ扱えない。検査方法の開発や動物実験に不可欠で、世界では3月現在で19カ国・地域に41施設がある。先進7カ国(G7)の中では日本だけが未稼働という。

 施設は1981年に完成したが、住宅街や学校に隣接し、病原体の漏洩(ろうえい)を懸念する一部住民が稼働に反対。感染研は危険度が1ランク低い新型肺炎(SARS)ウイルスなどを扱うBSL3施設として利用してきた。

 しかしアフリカで昨年、エボラ熱の流行が拡大し、BSL4施設としての稼働実現が急務となっていた。稼働できなければ感染の有無は診断できても、ウイルスを培養して感染力や病原性を詳しく調べたり、どの薬が効くかを確認したりすることができないためだ。

 今回のエボラ熱流行の際も、研究の積み重ねがあった国は速やかにワクチンなどの臨床試験を行うことができた。また、米国やカナダなどは2001年の米同時テロ以降、BSL4施設で生物兵器によるバイオテロへの対策に力を入れている。日本でも稼働すれば研究の進展が期待できる。

 施設内では病原体を三重の容器で凍結保管するほか、壁を二重にし、室内の気圧を低くすることで漏洩を防ぐ。厚労省は近隣自治会や小学校の代表らがメンバーに加わる協議会を設けて安全対策や必要性を説明するほか、施設見学会を開いて理解を求めていた。

 塩崎厚労相は施設運営の前提として、住民への使用状況報告などを確約した。丁寧な対応を心掛け、今後も不安の払拭(ふっしょく)に努める必要がある。

 稼働容認を受け、塩崎厚労相は「30年以上続いた懸案が解決した。国民の生命と健康を守るために不可欠な施設だ」と説明。藤野市長は「安全対策、市民の理解の進展などを踏まえ、慎重に考慮した結果、稼働やむなしとの判断に至った」と述べた。

 施設がテロの標的とならないようにすることも求められる。海外ではウイルスの持ち出し防止のため、国が出入りする研究者の身元を確認している。日本でも実験に関わる研究者を限定することを検討するほか、健康診断で精神状態をチェックする。対策に万全を期してほしい。

 故障などに備え、こうした施設は複数ある方が望ましいと言われる。国内では、茨城県つくば市の理化学研究所にもBSL4としての機能を持つ施設があるが、住民の反対で稼働していない。

複数の稼働目指したい

 一方、長崎大では新たなBSL4施設を設置する構想がある。村山庁舎の施設は箱の中でウイルスを扱う方式だが、長崎大は宇宙服のような防護服を着て、室内を広く使える設備とする方向だ。複数の施設の稼働を目指したい。

(8月5日付社説)