安全性確保のため薬のネット販売規制は妥当


 政府は一般用医薬品(市販薬)のインターネット販売について、医療用(処方薬)から切り替わって間もない品目の一部を規制することを決めた。また、副作用の強い劇薬に指定されている5品目のネット販売は禁止する。

 ネット通販業界は全面解禁を求めているが、安全性確保のため規制は妥当だ。

 薬事法改正案提出へ

 政府方針は、今後処方薬から切り替わる市販薬について、発売後の安全評価期間を上限3年とし、安全性が確認できれば3年以内でのネット販売解禁も可能にするというもの。今国会に提出予定の薬事法改正案が来春に施行されれば、市販薬に切り替わって間もない23品目のうち14品目のネット販売が禁止される見込みだ。

 障害者や高齢者、あるいは薬局がない離島や山間部に住む人たちにとって、市販薬のネット販売は便利に違いない。需要の底上げにもつながろう。しかし、安全性が確保できるか懸念が残るのも確かだ。

 服用の方法を誤れば、市販薬によって命を落とす危険もある。今回の規制に関し、田村憲久厚生労働相は「薬局での対面販売によって薬剤師の五感で安全性を確認する必要がある」と強調した。

 市販薬のネット販売をめぐっては、最高裁が今年1月、一律規制の厚労省令を違法と判断した後、事実上全面解禁状態となっていた。

 しかし、関東地方の業者が7月下旬、ネット上で使用期限切れの市販薬を市価より安い値段で販売するなどの問題が生じている。

 期限切れの薬は成分が変質している恐れがあるほか、副作用が出ても公的な救済制度の対象にならない可能性もある。

 また、海外では違法サイトによる偽造医薬品販売などのケースもあり、各国は厳正な認証制度を設けている。さらに、市販薬の中には薬物依存につながる成分が含まれているものも存在し、ネット販売による薬の大量購入に関しても実効性ある対策が必要だ。

 今回の政府方針に対し、楽天の三木谷浩史会長兼社長は「科学的根拠のない規制」と批判して政府の産業競争力会議の民間議員を辞任する意向を表明した。規制が実施された場合、楽天グループの「ケンコーコム」は市販薬のネット販売の権利確認を求める行政訴訟を起こす方針だ。

 しかし、たとえ実施されたとしても、市販薬の99・8%はネットで販売できる。安全性確保のため、最低限の規制は受け入れるべきではないか。

 もっとも、ネット通販業界が反発する背景には、薬局での対面販売が十分に機能していないことがある。対面販売でも、副作用についての情報提供がされないことも多い。

薬剤師は本来の役割を

 本来、薬剤師には消費者の健康管理を支援する役割がある。患部の状態を確認したり、地域の医療機関を紹介したりできるなど、対面販売の利点を生かした対応によって地域住民との信頼関係を築いていくことが求められる。

(11月10日付け社説)