岩手中2自殺、なぜ救えなかったか検証を
岩手県矢巾町の中学2年の男子生徒が電車にはねられ死亡する事故があった。いじめを苦に自殺したとみられている。
生徒は担任とやりとりしていたノートに、いじめを受けていたと書いていたが、最悪の事態を防ぐことはできなかった。いじめによって、子供たちが死に追いやられることがあってはならない。
教職員間の連携が不足
「ずっと暴力、ずっとずっとずっと悪口」「なぐられたりけられたり首しめられたり」……。生徒が担任に提出していた「生活記録ノート」には、このような記述がある。死亡する数日前には「もう市(死)ぬ場所はきまってるんですけどね」と書いていた。なぜ救うことができなかったのか。
校長はノートの内容について担任から報告を受けておらず、学年主任や同僚の教職員も把握していなかった。生徒は1年の時もいじめを訴えていたが、当時の校長が「解決した」と判断し、現校長に引き継がなかったという。
また、学校が6月に行った全校生徒へのアンケートで、生徒はいじめを受けたと回答していた。しかし面談などは実施されず、校長にも報告されなかった。最悪の事態を招いたことの背景に、教職員間の連携不足があったことは否めない。
いじめを受けている生徒が、自分の力で問題を解決することは難しい。学校側の適切な対処が欠かせないはずだ。それがなければ、生徒が孤立し追い詰められるのは当然である。
地元の教育委員会は、いじめの有無や死亡との関係などを調べるために第三者委員会を設ける。なぜ生徒のSOSが見過ごされたのか徹底検証しなければならない。
2011年に大津市で中学2年の男子生徒が自殺するなどいじめ問題が相次いだことを踏まえ、13年9月に「いじめ防止対策推進法」が施行された。学校での対策として、複数の教職員や心理、福祉の専門家で構成する組織を設けることを義務付けている。
だが、大津市で自殺した生徒の父親は「隠蔽(いんぺい)体質など教育現場の意識は変わっていない」と述べている。たとえ組織を設けても、教職員が変わらなければいじめをなくすことはできないだろう。
いじめ防止対策推進法は、学校が犯罪として扱う必要があると判断した時は、警察署と連携して対処することも定めている。今回自殺した生徒の父親は、警察で生徒が暴力を受けたり、悪口を言われたりしていたとみられることを説明して調査を要請した。
いじめる側は集団心理が働いて行為がエスカレートする場合がある。いじめをなくすには、立派な犯罪であることを子供たちにきちんと伝えることも求められよう。
道徳教育充実に期待
18年度以降に小中学校で正式教科となる「道徳」では、いじめ防止のための学習項目を盛り込む方向だ。道徳教育の充実がいじめ撲滅につながることを期待したい。これ以上、いじめによる悲劇を繰り返すことがあってはならない。
(7月21日付社説)