空き家対策の特別措置法の積極活用へ発想の転換を
空き家対策の特別措置法が施行された。
これに合わせて国土交通省は、周辺環境に悪影響を及ぼし撤去命令の対象となる「特定空き家」の判断基準を示したガイドラインを公表した。空き家対策が本格的に動き出すことを期待したい。
全住宅の7軒に1軒
空き家は住宅の供給過多や地方の人口減などを背景に増加し、大きな社会問題となっている。一昨年10月の時点で820万戸に達し、全住宅の7軒に1軒が空き家という状況だ。
中でも長期間放置された空き家は318万戸に上り、防災や防犯、そして景観などへの悪影響が問題になっている。密集市街地や大雪、台風の影響を受けやすい地域では特に深刻だ。
特措法は、市町村が空き家の所有者を固定資産税の情報を利用して迅速に把握できるようにした。所有者が分からない場合も問題を生じる可能性のある空き家には立ち入り調査する権限を付与している。
「特定空き家」に認定した場合は、所有者に修繕や撤去を勧告、命令に従わない場合や所有者が不明の場合は行政代執行による強制撤去もできるよう定めている。
放置空き家の増加の一因に住宅用地に認められている固定資産税の軽減措置があるが、勧告が出た特定空き家は、平成28年度分から軽減措置が受けられなくなる。所有者に修繕や再利用を促す効果が期待される。
ガイドラインは特定空き家の判断基準として、建物の著しい傾斜や土台の欠損で倒壊の恐れがある、多数の窓ガラスが割れたまま放置されたり立木が建物の全面を覆うほど茂ったりするなど著しく景観を損なっている、門扉が施錠されていないなど不特定の者が容易に侵入できる、などを列挙した。
また、ごみの放置による臭気など衛生上有害ないわゆる“ごみ屋敷”も対象になりうるとしている。
もっとも、特措法の施行だけで空き家問題が根本的に解決されるわけではない。空き家自体は、加速する人口減少を背景にさらに増え続けることが予想される。
対策のためには、古い家屋も修繕しながら、積極的に利用する方向へ国民の意識を変える必要がある。
レンガや石造りが多い欧州の住宅は、築100年以上経た住宅を修理、リフォームして使うのが普通だ。日本は木造家屋が多いこともあって、中古住宅市場は欧米などと比べて実に小さい。新築にこだわらず、リフォームによる再利用へと業界も購入者も発想を転換することが求められる。
地方創生に生かしたい
空き家問題は、人口減少が激しい地方ではより切実だ。住む人のいなくなった民家や住宅を、都市からの移住者に安い価格で貸したり売ったりする動きもある。
地方創生で、地方が移住者を呼び込む材料の一つとして利用価値は高い。「空き家バンク」など空き家ビジネスも生まれている。行政、住宅業界がさらに知恵を絞って、空き家利用を活発化させる時である。
(5月30日付社説)