国際テロ検証、情報機関設置に着手せよ


 過激派組織「イスラム国」による日本人殺害事件の政府対応を検証していた委員会が「判断や対応に誤りがあったとは言えない」との報告書を発表した。「手前味噌的な内容」と非難する向きもあるが、反省すべき点はあるものの、おおむね妥当な内容である。

低烈度戦争次元の問題

 国際テロリストによる日本人人質・殺害事件などの際、重要なのは、それが国内犯罪と違い低烈度戦争次元の国際問題だという点である。従って、日本国内だけで通用する情緒的な感覚で対応してはならない。今回のケースもその典型だ。

 我が国では「人道援助さえしておれば、敵視されることはない」との受け取り方をする者が多い。しかし国際社会では、テロに対抗している国家への援助は、軍事的なものでなくても、テロ組織に敵対的行動と見なされるのだ。

 テロに対抗する覚悟がないような国・国民は、テロリストから与(くみ)し易しと見られてテロの対象になる可能性が高まる。テロの本質は「恐怖を与える」ところにあるからだ。脅しに委縮していては、人道的援助さえもできなくなってしまいかねない。

 一方、テロとの戦いで大事なのは情報の戦いである。今回の報告書でも情報収集の重要性に触れてはいるが、いささか的外れだ。今後とも外国の情報機関との「緊密な関係の構築に努める」との報告書の表現に露呈しているように、日本政府のいう「情報」は諸外国から提供された情報である。他の主要諸国のように、日本が独自に集めた情報ではないのだ。

 今回のケースでは、外国の情報機関等からかなりの情報提供を受けたようだが、何時も諸外国が苦労して入手した情報が得られるとは限らない。情報の世界はギブ・アンド・テイクが原則だからだ。これは国家の安全保障絡みでも同様である。

 戦争が総力戦になり、他の主要諸国が秘密情報収集、防諜機関を相次いで設立した第2次世界大戦前から、日本だけはこれを見習わなかった。今回の事件を契機に他国依存体制を反省し、他の主要国並みの情報機関設置に着手すべきである。

 報告書は今後の課題として、渡航の自由と危険地域への邦人の渡航制限との関係を挙げている。記者にとっては報道の自由にも関わる。

 「映像だけが危険地帯の実情を伝えてくれる」と強調する向きがある。しかし、ニュース報道以上に、映像・写真が真実を伝えるという保証はない。周知のごとく、国際報道映像・写真は、政治的立場から改竄(かいざん)されている場合が少なくない。

利用されやすい記者

 それだけではない。「テロの成否は、報道されるか否かで決まる」と言われる。このテロリストの視点から見れば、危険地域に入り込んで悲惨な状況の報道をし、また恐怖を与える犠牲者の役割をも果たしてくれる記者は、大歓迎だろう。

 国際テロは複雑な要因が絡み発生するので、映像や写真で真実が明らかになるとは限らない。記者はそれを承知の上で、テロリストの支配地域に入るべきであろう。

(5月28日付社説)