あまりにもずさんな群馬大病院の管理体制
群馬大医学部付属病院(前橋市)で肝臓の腹腔鏡手術を受けた患者8人が、病院側の過失で死亡した。管理体制があまりにもずさんだったと言わざるを得ない。
手術で患者多数が死亡
同病院では2010~14年、腹腔鏡を使う肝臓手術を受けた患者93人のうち8人が死亡した。死亡例について個別に検証した調査委員会は最終報告書の中で、術前検査が行われなかった結果、過大な手術で容体悪化につながった可能性や、肝動脈の損傷など手術中の対応の問題点などを指摘。その上で、全ての死亡例について過失があったと結論付けた。
いずれも同じ40歳代の男性医師が執刀したものだ。患者の家族は、この医師から「今手術しないと死んでしまう」「すごく簡単な手術」などと説明を受けたという。
しかし、腹腔鏡手術の難度は高い。この手術は腹部に開けた小さな切り口からカメラや器具を差し入れて行われる。死亡した8人のうち3人は、肝臓の左半分を切り取ると同時に胆管を切除して小腸とつなぐ手術を受けているが、この方法は縫い合わせが不完全になりやすいとされる。
この医師に対しては、腹腔鏡手術の実績作りを疑う意見も出ている。学会では、手術成績を「おおむね良好な結果」と発表していたという。
同じ医師による肝臓の開腹手術でも10人が死亡している。うち1人は死亡後にがんではないと判明したのに、その事実を遺族に告げず、がんと記入した虚偽の診断書を作成したという。医師としての基本的な倫理観が欠落しているとしか言いようがない。
同病院は「適格性に疑問がある」として、この医師による一切の診療行為を停止したというが、対応が遅過ぎる。しかも、医師が所属する第2外科からは8人の死亡について報告がなく、結果的に病院はこの問題を見過ごしてきたことになる。
管理体制に重大な欠陥があったのは明らかだ。本来であれば、手術を受けた患者が1人でも死亡した時点で、治療が適切だったかどうか検証すべきだった。こうした仕組みが整っていれば、これほど多くの人が死なずに済んだのではないか。
同病院は高度な医療を提供し、診療報酬優遇や補助金交付などがある「特定機能病院」の承認を受けているが、厚生労働省は承認取り消しを検討している。今回の問題は患者や地域住民を裏切り、医療に対する信頼を失墜させた。取り消しもやむを得ないだろう。
遺族側の弁護団は調査委による検証が不十分で全容が未解明だとして徹底調査を求めた。手術を行った医師の刑事告訴も検討している。同病院は、こうした事態を重く受け止めなければならない。
悲惨な医療事故防止を
最終報告書では、同病院に第1外科と第2外科が併存することによって、少ない外科系人材が分散していたことが問題視されている。
他の医療機関も自らの管理体制を点検し、悲惨な医療事故を防止する必要がある。
(3月15日付社説)