覇権拡大に向け中国国防費の異様な伸び
中国の2015年国防費は8868億9800万元(約16兆9000億円)で、前年比10・1%の増と引き続き高率の伸びとなった。
1989年以来、2010年を除いて2桁の増大が続いていることになる。15年の経済成長率の目標が7%に低下している点を念頭に置けば、異様な伸びと言える。
実際は公表額上回る
周知のように、中国が実際に国防のために使用している国家予算は、公表されたもののほか、予算の別項目に組み込まれている外国兵器の輸入や国産兵器の研究開発費等がある。さらに駐屯部隊に対する地方自治体の負担なども、公表国防費には含まれていない。
従って、日本や欧米主要諸国の算定基準を当てはめれば、実際の国防費は公表額と比べて少なくとも3割上回っているとみられる。購買力平価で算出すると、2倍近くはあると見る向きもある。
ここで注視すべきは、異様と言えるほど急増している国防経費で、中国は何を目指しているのかという点である。傅瑩全人代報道官は、増大の理由として兵器の研究開発費上昇や軍人の給与アップ等を挙げている。
だが、前述のように研究開発費は予算の別項目に計上されている。また人件費が安価で済む徴兵制兵士が大部分なので、仮に給与をアップしても大した額にはならない。公表国防費の内訳を隠しているのは、実態を知られたくないからであろう。
傅報道官は「中国の国防政策は防御的なものである」と前置きした上で「今後とも平和発展の道を歩み続ける」と強調している。建国直後のチベット侵略・併合、さらにソ連、インド、ベトナムなど周辺諸国、および韓国動乱における欧米諸国との戦いを想起すれば、中国が“防御的”という言葉を、我々とは違った意味で使用していることが分かる。
習近平政権は「中華民族の偉大な復興」をスローガンにし、「核心的利益の擁護」と「海洋権益の確保」を重点政策として打ち出している。中国がアジア・西太平洋地域で覇権を握る上で必要な領域、島嶼(とうしょ)の支配、さらにはインド洋、中近東・アフリカ地域への進出能力確保を狙いとしたものと推察できる。
それだけではない。留意すべきは、人民解放軍が中国国家の軍隊ではなく、中国共産党の私兵であるという点だ。つまり、共産党独裁体制維持が軍の主要任務の一つなのだ。諸外国の経済発展の歴史を顧みれば、ある時期に国家が非常な混乱に陥っている。
急速な経済発展の際には、国民間の所得格差が拡大する。また、技術導入は不可避的に外国文化の流入を伴う。一部国民の所得増大による海外留学や旅行で諸外国の文化に触れる等の諸要因も混乱をもたらす。
日本は安保法制整備を
中国はまさにその時期に来ている。独裁色を強めている習政権は、国民の不満を抑えるためにも外部に敵を作らなければならない状況に置かれている。わが国は“敵”にされやすいことを自覚して、防衛力、法制の整備をすることが必要だ。
(3月6日付社説)