訪朝団派遣、北朝鮮のペースに乗せられるな


 政府は北朝鮮による日本人拉致被害者らの再調査の現状を把握するため、27~30日の日程で政府訪朝団を平壌に派遣することを決めた。

 不安募らす被害者家族

 訪朝団は外務省の伊原純一アジア大洋州局長が団長を務め、同省や警察庁、内閣官房拉致問題対策本部の実務担当者ら10人程度で構成する。安倍晋三首相は「拉致問題の解決が最優先であり、正直に、誠実に対応しなければならないと先方の責任者に伝えることが目的だ」と説明した。

 しかし、拉致被害者に関する報告が行われていない段階での訪朝は北朝鮮を利する恐れがある。被害者の家族会は、訪朝を「待つべきだ」と政府に要請していた。

 拉致問題について、これまでの北朝鮮の態度は不誠実極まるものだった。2004年には拉致被害者横田めぐみさんのものとする「遺骨」を提出したが、DNA鑑定で別人と判明して家族から怒りの声が噴出した。また、08年に同意した再調査も福田康夫首相(当時)の退陣を理由に、一方的に先送りを通告してきた。

 7月に特別調査委員会が設置されて始まった今回の再調査でも、北朝鮮はすでにウソをついている。

 当初、初回報告の時期を「夏の終わりから秋の初め」としていたにもかかわらず、先月末の日朝協議で北朝鮮の宋日昊・日朝国交正常化交渉担当大使は「(再調査は)初期段階であり、具体的な調査結果を報告できる段階にはない」などとして先送りした。

 その上で、詳細な説明は日本側が平壌を訪れ、責任者から聴取するよう求めた。これでは、家族が不安を募らせるのは当然だ。このままでは北朝鮮のペースに乗せられかねない。

 そもそも北朝鮮は拉致被害者の現状について把握しており、再調査の必要はないはずだ。訪朝すれば、新たな要求を突き付けられる恐れもある。本来であれば訪朝団を派遣すべきではないだろう。

 拉致は北朝鮮による国家犯罪であり、全ての被害者をすぐに帰国させるべきである。それにもかかわらず、北朝鮮は拉致問題を日本との交渉カードとして利用してきた。

 高齢化が進む被害者家族の心を、これ以上弄ぶことは許されない。拉致被害者増元るみ子さんの弟照明さんは「拉致被害者を帰すか帰さないかの決断をさせるのであれば、訪朝は有効だ」と述べている。

 訪朝する以上、政府は一切の妥協を排し、強い姿勢で交渉に臨むべきだ。被害者救出のためには、拉致問題の解決なくして日朝関係の進展はないという意思を示す必要がある。

 誠意なければ制裁復活を

 政府は7月、北朝鮮の再調査開始を受け、人的往来と送金に関する制限を解き、人道目的に限定して北朝鮮籍船舶の入港も認めるなど、独自制裁の一部解除を決めた。

 北朝鮮に対しては「行動対行動」の原則から外れてはならない。今回の訪朝で誠意ある対応が見られなければ、これらの制裁を復活すべきだ。

(10月23日付社説)