女性活躍推進、「家族の価値」を軽んじるな


 安倍晋三首相は「女性の活躍推進」を内閣の重要課題の一つに据え、自ら本部長に、全閣僚が参加する「すべての女性が輝く社会づくり本部」を発足させた。その趣旨に異論はないが、気掛かりな点がある。

 それは活躍の場を「労働」に限り、家庭や地域での輝きが軽んじられていることだ。「女性の活躍」に乗じて夫婦別姓などジェンダーフリー政策を持ち込もうとする動きもある。わが国の安寧な社会の基盤となってきた「家族」を蔑ろにするようなことがあってはなるまい。

 「妻は家庭」が過半数

 同本部の発足に当たって、有村治子女性活躍担当相は「女性の活躍を阻む、あらゆる課題に挑戦する」とし、女性の再就職支援策や仕事と家庭の両立を促進する企業支援策などを盛り込んだ政策パッケージを来年春までにまとめる考えだ。

 背景には少子化で労働人口が減少しており、女性の働く比率を高めようという思惑がある。わが国の女性は第1子出産を機に6割が仕事をやめており、女性の年代別の労働力率はM字カーブを描いている。そこで出産・子育て期の女性を労働に誘導し、M字の凹みをならす。それが「女性活躍推進」の狙いだ。

 もとより働きたい女性を援助し、男女の賃金格差などを是正するのは必要なことだ。だが、女性が活躍するのは何も働く場だけではあるまい。

 内閣府の調査では「夫は外で働き、妻は家庭を守る」との考えに賛成する人が過半数を超えている。とりわけ若い世代で専業主婦派が増えており、3歳以下の子供のいる母親の約6割は育児に専念したいと考えている。出産を機に仕事をやめた女性の5割以上が育児専念派で、仕事との両立が困難でやめた人の2倍に上る。

 こうしたデータが示すように出産・育児に喜びを感じ、家庭で輝きたいと願っている女性が少なくない。地域や学校で見守りなどのボランティアに生きがいを感じている女性もいる。

 それにもかかわらず、育児世代を強引に労働だけに誘導するのは「家族の価値」を壊すばかりか、多様な女性の生き方を否定しかねない。

 また所得税の配偶者控除が槍玉に挙げられているが、配偶者控除は専業主婦の「基礎控除」であって優遇策ではない。控除対象から外れる「103万円の壁」が労働を妨げるとするのも筋違いだ。

 厚生労働省の調査ではパート女性のうち就業調整しているのは約2割にすぎない。配偶者控除を廃止し、専業主婦世帯の負担を増やすのは、それこそ差別につながる。

 また女性躍進に乗じて「夫は外、妻は家庭」が典型的な男女の「固定的役割分担」としてジェンダーフリーを主張したり、女性閣僚5人のうち3人が通称(旧姓)を使用していることをもって夫婦別姓の導入を求めたりする向きもあるが、これらも見当違いだ。

 政策策定は慎重姿勢で

 女性躍進が男女の性差や文化・伝統を否定するイデオロギー的な思惑に動かされないよう慎重に政策パッケージ作りに臨んでもらいたい。

(10月13日付社説)