産経記者起訴、民主主義を損なう行為だ
産経新聞の前ソウル支局長が同紙のウェブサイトに掲載した記事が韓国の朴槿恵大統領の名誉を著しく傷つけたとして在宅起訴された。
韓国は日本や米国などと同様に自由と民主主義を尊重する国のはずである。その根幹である報道の自由ならびに唇歯の間柄にある日韓両国の友好の観点から、あるまじき遺憾な行為として強く抗議するとともに速やかな起訴撤回を求める。
朴大統領の名誉毀損で
起訴は海外にも波紋を広げ、米国務省報道官は「我々は広く言論の自由を支持している」として憂慮を表明した。同省の2013年版人権報告書では、韓国の名誉毀損(きそん)に関する法律について「報道活動に萎縮効果を及ぼし得る」と批判している。起訴は国際社会の常識と懸け離れたものであり、韓国の国際社会でのイメージを傷つけたことを自覚すべきだ。
問題となったのは前支局長が8月3日に産経のウェブサイトに掲載した記事だ。韓国の大手紙のコラムなどを紹介し、4月に発生した旅客船沈没事故の当日、朴大統領が男性と会っていたのではないかとのうわさに言及している。
ソウル中央地検は前支局長の出国を禁じ、これまで3回にわたって事情聴取を行った。その上で、記事内容が虚偽であることや被害者への謝罪や反省の気持ちを見せていないことなどを理由に、情報通信網法に基づく名誉毀損罪で在宅起訴した。
この罪は最高刑が懲役7年。日本政府は韓国側に抑制的な対応を求めていたが、強硬な処分が取られたことで、両国関係への悪影響は必至だ。
確かに引用したコラムの裏を取っていないなど、記事は不十分なものであった。掲載した産経の姿勢に問題がなかったとは言い切れないだろう。
しかし、起訴に踏み切った地検の姿勢は問題だ。産経の法的責任を追及するのは、朴氏や大統領府の意向を汲んだためと指摘する向きもある。朴氏は、うわさについて取り上げた野党議員に「国民を代表する大統領に対する冒涜(ぼうとく)的な発言も度を越している」などと述べた。その怒りの一言で検察が立ち上がったとの見方もある。だが、勇み足ではなかったか。
日本新聞協会は「起訴強行は極めて遺憾であり、強く抗議するとともに、自由な取材・報道活動が脅かされることを深く憂慮する」との声明を出した。日本民間放送連盟も「表現の自由と報道の自由は民主主義社会に欠くことのできないものであり、韓国で取材活動を行う同じ日本の報道機関として、強く懸念している」との報道委員長談話を発表した。
我々も全く同じ立場だ。一部の韓国メディアからも批判の声が上がっている。
韓国のイメージ傷つけた
産経はかねて韓国に批判的な報道で知られており、今月に入って韓国の保守系団体が同紙ソウル支局前で抗議活動を行っている。したがって、産経に厳しく対応しても世論の理解を得られると検察が判断したとも考えられる。だが、今回の起訴が韓国のイメージを大きく傷付けたことを忘れてはならない。
(10月11日付社説)