ノーベル賞、栄誉てこに若手育成に励め


 2014年のノーベル物理学賞の受賞者に、実用的な青色発光ダイオード(LED)を開発した赤崎勇名城大教授と天野浩名古屋大教授、中村修二米カリフォルニア大サンタバーバラ校教授が選ばれた。

 日本人のノーベル賞は、人工多能性幹細胞(iPS細胞)の開発で12年に医学生理学賞を受賞した山中伸弥京都大教授以来。米国籍の南部陽一郎米シカゴ大名誉教授を含め計22人となった。日本人の英知と力を世界に示し得たことを誇りたい。

 人類の福音LED照明

 授賞理由は「明るく、省エネルギーの白色光を可能にした効率的な青色LEDの開発」。選考委員会は、世界の電力消費の4分の1が照明に使われる中、LEDが資源の節約に大きく貢献したと高く評価した。白熱電球や蛍光灯よりもエネルギー効率がはるかによい。

 LEDは消費電力が少ないため、大掛かりな発電装置は必要でなく、アフリカなど送電線がない地域でも太陽光発電を利用し照明が可能になる。まさに人類への福音と言える。

 青色LEDは、電流を通すと発光する半導体素子。光の三原色のうち赤と緑のLEDが先に生まれていたが、青色の開発は困難を極めた。材料に窒化ガリウム系を使うと、はるかに優れた性能が発揮されるということが知られており、世界の研究者たちが実験を繰り返したが、誰もその単結晶を作ることができなかった。それに挑戦したのが赤崎氏らだった。

 同氏は1973年、窒化ガリウム系の青色LEDの開発を始め、後に天野氏らと同様の研究に取り組んだ。そして困難を一歩一歩乗り越え、89年に実現した。当時メーカー企業に在籍していた中村氏は赤崎氏らの成果を引き継ぎ、大量生産、製品化に成功した。

 青色LEDは20世紀末の半導体素子の分野で最も注目される発明となった。日本人研究者たちが開発と製品化を手掛けたことは特筆されるべきだ。窒化物半導体は大きな産業となりつつあり、亜鉛系の発光素子などの開発も期待される。

 また、これまで物理学賞を受賞した日本人は湯川秀樹博士をはじめ素粒子物理学の基礎理論を構築した人たちがほとんどだった。物質の性質を見極める物性物理学では、これまで73年に唯一、江崎玲於奈氏がエサキダイオードの発明で受賞しただけだった。同分野から再び受賞者が出た意義は大きい。特に戦後、半導体など物性関係の技術開発を得意分野にしてきただけに、赤崎氏らに続く研究者の発奮が望まれる。

憂うべき「博士」減少

 その一方で今日、科学技術関連予算は厳しい財政事情を反映し、ほぼ横ばい状態が続いているという事実がある。政府は一貫して自然科学の基礎研究、科学技術の振興に積極姿勢を示しているものの、若手研究者を育て支える環境整備は決して十分でない。

 実際、博士課程への進学者数は2003年をピークに減少傾向にある。資源の乏しい日本は人材を育て技術立国を目指し産業を興隆させることが肝要であることを改めて強調したい。

(10月9日付社説)