弱かったスコットランドの独立の切実さと大義


 英国北部スコットランドの英国からの分離・独立の是非を問う住民投票が行われ、反対多数で否決された。国際的にも大きな影響を与え、自由陣営の大国、英国の国力低下に繋(つな)がる国家分裂という事態が回避されたことを歓迎したい。

賛成票が予想ほど伸びず

 当初、僅差となることが予想されたが、結果は反対55・3%、賛成44・7%で、10ポイント以上の差が付いた。とはいえ、40%以上の人々が独立を望んでいることの意味は重く、今後も独立問題が火種となり続けることは避けられない。

 独立賛成派は、3世紀以上にわたってくすぶる民族感情に訴えながら地道な草の根運動で支持を広げていった。英国から独立すれば、北海油田・ガス田の税収で高福祉社会を実現するなどとバラ色の夢を語っていた。

 しかし現実的に考えた場合、独立した場合の困難やデメリットは明らかだ。賛成票が予想ほど伸びなかったのは、最後の段階でスコットランド住民が冷静な判断を行ったためである。

 今回の住民投票は、2011年のスコットランド議会選でスコットランド民族党(SNP)が過半数を獲得した後、12年に自治政府と英政府の合意により決まったものだ。この時点で、キャメロン英首相は住民投票をしても大差で独立は否決されると高をくくっていたようだ。

 事前の一部世論調査で賛成派が反対派を上回る結果も出て、焦りを覚えたキャメロン首相は「残ってくれれば、権限移譲を進める」と約束。サモンド・スコットランド自治政府首相は住民投票後、「迅速な実行を期待する」と念を押した。

 キャメロン首相は「約束は全面的に守る」と語ったものの、スコットランド自治政府には既に教育や警察、課税権の一部が移譲されている。さらに権限を認めれば、ウェールズなど他の地域からの不満が出てくることは目に見えており、新たな難題を抱えたことになる。

 住民投票を振り返ると、独立派の主張には、いまひとつ切実さと大義が欠けていたように思われる。民族自決はもちろん尊重されなければならない。だが、スコットランドが連合王国の一員として極端な差別や不利益を被っているわけではない。自治政府の存在も認められている。

 そして何より、民族固有の文化が抑圧を受け、民族としてのアイデンティティーが脅かされているわけではない。むしろ英国文化の重要な一面として尊重されている。

 英国が国連安保理の常任理事国あるいは英連邦の盟主として国際社会で重要な位置を占め、政治、軍事、経済などの面で世界の安定のために大きな役割を果たしていることを考えれば、国家の分裂によるマイナスの影響は大きい。

自由求める民族に目を

 アジアには、中国のウイグル族やチベット族など、弾圧・抑圧によって宗教や固有の文化、さらには存在自体が抹殺されようとしている民族がいる。彼らにとって住民投票など夢のような話である。世界には、もっと切実に自由と自治を求めている人々がいることに目を向けるべきである。

(9月21日付社説)