理研改革、徹底できるか疑問符が付く
STAP(スタップ)細胞の論文問題で、理化学研究所は再発防止策をまとめた。理研調査委員会に実験画像の不正を認定され、論文撤回に至った小保方晴子研究ユニットリーダーが所属する発生・再生科学総合研究センター(CDB、神戸市)は、運営上の問題があるとして11月までに規模を半分に縮小する。
CDBの規模を半分に
CDBは、外部有識者でつくる改革委員会(委員長・岸輝雄東京大名誉教授)が発表した提言で「研究不正を誘発する構造的な欠陥」を指摘され、早急な解体と竹市雅俊センター長ら幹部の刷新を求められていた。CDBの名称は「多細胞システム形成研究センター(仮称)」に変え、竹市センター長の後任は今年度中に選考する。
防止策では、運営主体だったグループディレクター(実績あるベテラン研究者)の会議を廃止し、新たな運営会議には外部有識者を参加させる。また、小保方氏の採用審査が不十分だったことから、研究室の主宰者を採用する手順を文書で明確化し、選考過程を記録する。
CDBの研究室の一部を理研の別の拠点に移すなどして、研究者の雇用は引き続き確保する。だが、理研は改革委が求めた研究担当とコンプライアンス(法令順守)担当の理事の刷新については「なくてはならない人材」(野依良治理事長)として棚上げにした。防止策はCDBの「解体的出直し」を掲げたが、これで改革を徹底できるのか疑問符が付く。
防止策は改革委の提言から約2カ月半後に策定された。時間のかけ過ぎだ。この間、世界的に著名な再生医療研究者でSTAP論文を指導した笹井芳樹副センター長の自殺で貴重な人材が失われた。
一方、CDBで高橋政代プロジェクトリーダーが進めている人工多能性幹細胞(iPS細胞)を使った目の難病患者に対する臨床研究は継続する。iPS細胞を開発した山中伸弥京都大教授の研究所との連携を強化し、細胞の遺伝子解析などで支援を受ける。組織の縮小で患者に不安を与えないようにすべきだ。
理研は4月から行っているSTAP細胞の検証実験の中間報告も発表した。小保方氏らが論文で発表した3通りの作製法のうち、生後1週間前後のマウスの脾臓(ひぞう)から採取したリンパ球を弱酸性液に浸す代表的な方法では、万能細胞に変わったことを示す現象は検出できなかった。
実験は来年3月まで続くほか、小保方氏自身による検証も進められている。しかし、科学界からは疑問の声が上がっている。科学研究では、存在しないことを証明するのは「悪魔の証明」と呼ばれる。「STAP細胞がないと言い切るには、膨大な無駄な実験をやる必要がある」と指摘する研究者もいる。
外部の声に耳傾けよ
理研が小保方氏に実験への参加を認め、処分を先送りしていることに対しても批判が高まっている。すでに論文が撤回されている状況下では、検証に意味がないとの意見もあり、日本分子生物学界は実験の凍結を求める声明を発表した。こうした外部の声に、理研は十分に耳を傾ける必要がある。
(8月29日付社説)