組織犯罪対策、「共謀罪」はやはり必要だ
国際ネットワーク化するテロ組織やマフィア、暴力団などの犯罪組織が凶悪な犯行を計画している時、それを未然にどう防ぐか――。
これは国際社会のかねての課題だ。それで各国が連携して立ち向かうため共通の処罰法を作ることになっている。ところが、わが国はその法整備を怠っている。治安を守る上で看過できない事態だ。
締結できない国際条約
世界ではテロ組織だけでなく、マフィアなどの麻薬シンジケートがマネーロンダリング(資金洗浄)ばかりか、国境を越えて犯罪を引き起こしてきた。近年では危険ドラッグが格好のターゲットにされ、青少年にも薬物汚染が広がっている。
このため国連は2000年、各国が連携して犯罪防止を図る「国際組織犯罪防止条約」を採択した。同条約は4年以上の懲役・禁錮を科すものを重大犯罪と定め、犯罪を計画・準備した段階で罪に問える「共謀罪」を設けることを義務付けている。03年に発効し、現在179カ国が批准している。
わが国は00年に同条約に署名し、03年の通常国会で自民、公明、民主、共産各党の賛成で承認された。これを受けて政府は共謀罪を盛り込んだ組織犯罪処罰法改正案を3度にわたって国会に提出したが、野党や一部マスコミが猛反対し、いずれも廃案に追い込まれ、条約を締結できないでいる。
未締結国は北朝鮮やイランなど国際社会と軋轢(あつれき)のある一部国家だけで、日本の未締結は国際社会の不信を買っている。これも集団的自衛権問題と同様の恣意(しい)的な反対論に引きずられた結果と言うほかない。
朝日新聞など左翼マスコミや共産党は「一般市民も飲み屋で相談しただけで捕まる」「内心の自由すら認められない」「619もの罪が対象で、暗黒社会の再来だ」などと、ありもしないことを列挙して反対論を張ったからだ。
そもそも組織犯罪処罰法は「共同の目的を有する多数人の継続的結合体であって、行為が組織により反復して行われるもの」を対象団体と規定しており、共謀罪も当然、その団体が対象で一般市民とは無縁だ。619の罪が挙げられているのは、条約が定める重大犯罪を日本に適用すればその数になるだけの話で、何も意図的に対象が広げられたわけではない。
06年の与党修正案では共謀罪の適用対象を「重大な犯罪を実行することを共同の目的とする団体」と限定し、また共謀しただけでは罰せず、共謀した者の誰かが実行の下見などの行動をした場合のみを処罰するとした。さらに留意事項として条文に「思想・良心の自由を侵すことや、団体の正当な活動を制限するようなことがあってはならない」と明記するとしていた。
次期国会で成立させよ
共謀罪への反対論には何の根拠もない。いつまでも犯罪組織に甘い顔をしていては国民の生命が脅かされるばかりか、国際社会から一層、不信を買う。20年の東京五輪を控え、これ以上の放置は許されない。政府は反対論を恐れず、次期国会での成立を期すべきだ。
(8月25日付社説)