広島土砂災害、「危険箇所」での対策が必要
広島市内で起きた局地的豪雨による土砂災害で39人が亡くなり、43人が行方不明になっている。記録的な豪雨と、脆(もろ)い地質などの悪条件が重なって大きな被害となった。
「まさ土」で被害拡大
安倍晋三首相は山梨県の静養先から東京に戻って救援を指揮した。多くの死者、行方不明者が出ていることに心を痛められる天皇、皇后両陛下は、きょう予定されていた軽井沢での散策を中止することにされた。
広島県知事の要請を受け、自衛隊600人が出動し救助に当たっている。また警察庁は、広域緊急援助隊などの派遣を決定し、大阪、兵庫、鳥取など6府県警から約700人が救助に加わった。
気象庁によると、広島市安佐北区では、20日午前1時半から3時間の間に観測史上最大となる217㍉の降雨を記録し、平年の8月1カ月の雨量の1・5倍の雨が降った。この未明の豪雨で市内10カ所以上で土砂崩れや土石流が発生した。
このような甚大な土砂災害となった原因として、「まさ土」と言われる脆い地質が挙げられる。花崗岩(かこうがん)が風化してできた「まさ土」は水を含むと崩れやすく、この「まさ土」で覆われた山の斜面が雨水を吸収し、「表層崩壊」を起こして山裾まで造成された宅地を土砂が襲った。
広島市では1999年6月に土砂崩れが発生し、20人が死亡している。今回は同じ場所で次々に積乱雲が発生する「バックビルディング現象」が発生したとみられている。土石流が起こりやすくなる目安は「1時間に50㍉以上の雨」が降った時とされているが、安佐北区に設置した雨量計は、1時間に130㍉の猛烈な雨を観測している。
昨年、台風26号の豪雨によって死者・行方不明者39人を出した東京・伊豆大島の土石流がまだ記憶に新しい。年々、土砂災害の被害が大規模になっているのは、これまでの想定を超えるような豪雨が多く発生するようになったためと思われる。地球温暖化によって、日本列島では非常に激しく降る雨が年々増える傾向にある。
しかも、山の多いわが国には、土砂災害が起きやすい「土砂災害危険箇所」が約54万カ所ある。「まさ土」が多い地域は、広島県だけではない。今回のような土砂災害は、日本のどこでも起きやすくなっていることを、しっかりと念頭に置いて防災、減災への対策を根本的に練り直していくべきだ。
2001年に施行された土砂災害防止法で、都道府県は土砂災害危険箇所を調査し、警戒区域や特別警戒区域に指定してハザードマップを作成するよう義務付けられている。これらの作業の再点検も必要だろう。
住民と地域は対策準備を
今回、被害が甚大となった理由として、広島市が避難指示・勧告を出すのが遅れたためとの指摘もあるが、局地的豪雨の正確な予測は不可能というのが専門家の見方だ。
土砂災害危険箇所近くに住む住民と地域が、日頃からさまざまなケースを想定して対策を準備する必要があろう。国や自治体がそれを助けるべきであることは言うまでもない。
(8月22日付社説)