未熟・身勝手な親による児童虐待の悲劇


 児童虐待が増え続けている。全国207カ所の児童相談所が2013年度に把握した児童虐待の件数(速報値)は、前年度比7064件(10・6%)増の7万3765件に上ることが厚生労働省の調査で分かった。

 7万件を超すのは初めてで、1990年度の調査開始以来23年連続で過去最多を更新することになった。

 初めて7万件を超す

 件数増加の背景には、児童虐待への社会的な関心の高まりの中で、第三者からの相談や通報などで発覚する件数が増えたことがある。また、配偶者間暴力(DV)が子供の前で行われる「面前DV」を心理的虐待として通告するようになり、昨年8月には虐待の被害児童にきょうだいがいる場合、そのきょうだいも虐待を受けているとして対応するようになったことも、件数を増加させることになった。

 ただそういう点を差し引いて考えても、虐待は減らず、子供が死亡する事件も後を絶たない。7万件を超す虐待がこの国の子供たちに行われていることは極めて深刻な事態だ。

 この背景には、大人になりきれない、未成熟な親が増えたことがあると思われる。特に死に至らしめるような悲惨な事件が起きるたびに、その親の非常識さ、身勝手さに愕然(がくぜん)とする。子供が子供を育てることはできない。もちろん、親も子供を育てる中で人間的に成長し本当の親になっていく面はある。だが、さまざまな虐待事例を見ると、親となるための基礎が不安定な親が多いことを否定できない。

 さらに、核家族化の中で子育て家庭が孤立化し、密室化した家庭の中では虐待がより発生しやすくなると考えられる。虐待の多い県を都道府県別にみると、上から大阪府、神奈川県、東京都と都市部が多いことも、それを示していると言える。

 離婚家庭、再婚家庭が増え、継父、継母による虐待も少なくない。子育ての基礎になければならないのは愛情であり、育児に求められる忍耐を可能とするのも愛情である。さまざまなケースはあるものの、一般に血縁関係のない子供に愛情を注ぎ時に忍耐強く接することは、実の子供以上に難しい。

 そういう意味で児童虐待を減らすには、親たちの再教育、安定した家庭の再建が必要だ。しかし、それは一朝一夕にはできない。未熟な親、身勝手な親、不安定な家庭が増える現状の中では、周囲の目、社会の目が虐待をいち早く察知し、子供たちを救うシステムを更に強化しなければならない。

 虐待する親への措置では、親権を無期限に剥奪する「親権喪失」に加え、民法改正で12年度から一時的な「親権停止」も可能となった。13年度の親権停止の申し立ては、16自治体で23例だった。

 負の連鎖を起こさせるな

 児童虐待が深刻な問題であるのは、子供の心に深い傷を残し、それが生涯にわたって暗い影を落とすことである。さらに、虐待を受けた子供が大人になって、自分の子供を虐待するケースが多いという報告もある。このような悲しい負の連鎖を起こさせないためにも、社会全体が目を光らせていく必要がある。

(8月8日付社説)