対露追加制裁、撃墜の全容解明につなげよ
政府はウクライナ情勢に関する対露追加制裁措置を発表した。ウクライナ東部でのマレーシア航空機撃墜事件を受けてのものだ。全容解明のため、現地の親露派に影響力を持つロシアへの圧力を高める必要がある。
親露派が調査を妨害
制裁内容は、ウクライナの不安定化に関与する個人・団体が日本国内に保有する資産の凍結やクリミア産品の輸入制限のほか、日本や欧州連合(EU)の出資で欧州復興開発銀行(EBRD)を通じて行うロシア向け新規投資案件の承認を見合わせるというもの。8月初めに閣議了解される見通しだ。
菅義偉官房長官は閣議後に、資産凍結の対象となる個人・団体のリストを公表する方針を示した。政府関係者によると、リストにはロシア政府関係者も含まれる。
ロシアはウクライナ南部クリミア半島を一方的に併合しただけでなく、影響力を確保するために親露派を煽(あお)ってウクライナ東部を混乱させてきた。こうした中で起きたマレーシア機撃墜では、乗客乗員298人全員が死亡した。
現場は親露派の支配地域で、親露派がロシアから提供された地対空ミサイルで撃墜したとみられている。親露派の後ろ盾であるロシアには、今回の事件に対する大きな責任があると言えよう。
事件をめぐっては、親露派による調査妨害のほか、配慮を欠いた遺体の扱いや金品の略奪などが伝えられ、遺族の気持ちを逆なでした。国連安全保障理事会が親露派に対し、調査関係者の制限のない立ち入りを認めるよう求める決議を採択したのは当然だ。
現場近くでは、事件発生後もウクライナ軍機が親露派の対空砲火によって撃墜された。ウクライナ東部では軍と親露派の戦闘で、事件の調査が困難になっているとも報じられている。だが、ロシアは親露派への武器供与を継続しているほか、自国領からウクライナ軍の拠点を砲撃しているとの情報もある。
ウクライナ情勢に関して制裁強化に及び腰だった欧州連合(EU)諸国は、撃墜事件を受け、ロシアに対する投資規制や武器禁輸に向けた準備を進めることで合意した。米国はすでにロシアの金融・エネルギー大手計4社を対象にした制裁を発動している。日本政府が今回、追加制裁に踏み切るのも、先進7カ国(G7)との連携を重視したためだ。
日本はこれまでロシアとの北方領土交渉への影響を懸念し、同国政府関係者ら23人を対象に入国ビザ発給を当面停止するなど、軽微な措置にとどめてきた。しかし、紛争とは無関係の民間機が撃墜された事態の重要性に鑑み、追加制裁は不可避と判断した。
露大統領は影響力行使を
日本にとって北方領土問題は重要だが、撃墜事件の全容解明には親露派とロシアの協力が欠かせない。調査を進展させるために、ロシアへの圧力を強化するのは当然の措置だ。
ロシアのプーチン大統領は親露派が調査に協力するよう影響力を行使すると述べた。その約束を果たすべきだ。
(7月29日付社説)