対中外交の明確な方針示せ
米国防総省が中国の軍事力や軍事行動に関する年次報告書を発表した。報告書は、中国が軍事費を急速に拡大させることで近隣諸国への影響力を強め、ひいては米国に対峙(たいじ)するという認識が基調になっている。
強硬な海洋進出を批判
中国の軍事費については、かねて強調されているように「透明性が欠けている」との批判を繰り返しているが、昨年は公表額1195億㌦(約12兆円)より2割増の1450億㌦(約15兆円)と推定している。
報告書はとりわけ、中国人民解放軍が台湾海峡有事に加え東シナ海や南シナ海での有事に備え、軍備の近代化を進めていると指摘。「東シナ海と南シナ海に対して近年、一段と対決姿勢が鮮明になってきた」として、その強硬姿勢を批判した。
ベトナム沖での資源開発に着手するなど、中国の東・南シナ海進出が予想以上に加速化しているのを睨(にら)んでの対中警告であることを忘れてはならない。
沖縄県の尖閣諸島について報告書は「日本の施政下にある」と重ねて強調し、「中国は尖閣諸島や日本、韓国、台湾の防空識別圏と重なる形で防空識別圏を設定した。米国がこれを受けての軍の運用方法を変えることはない」と言明。防空識別圏の自主的撤回を中国に求めた。
中国は、日本列島から台湾、フィリピンの西側に至る第1列島線を越え、日本南方からインドネシアに至る第2列島線まで制海権を拡大しようとしている。これに対して、米国は日本、韓国、オーストラリアなどとの同盟関係を強化し、第1列島線まで防衛し得る態勢を構築しようとしている。
報告書は、こうした米軍の展開を阻むために、中国が中距離弾道ミサイル、長距離巡航ミサイル、サイバー攻撃能力の開発などにより、接近阻止・領域拒否(A2AD)戦略を推進しているとの見方を示した。
中国は南沙諸島で、フィリピンが実効支配するアユンギン礁を奪おうと補給を妨害するなど圧力をかけている。西沙諸島では過去、ベトナムから島を略奪したことがある。
オバマ大統領は今年の一般教書演説で、スローガンとして掲げてきたアジア太平洋重視の方針を確認したが、具体的な内容については言及しなかった。米国の外交専門家の間からもアジア・ピボット(基軸移動)政策の具体性の欠如などに対する不満の声が上がっている。
この政策の大きな誘因の一つは中国の台頭だった。米国が明確な対中外交の基本方針を示さない限り、結果として中国の横暴を許してしまうことになる。
集団的自衛権行使容認を
東シナ海の公海上空では5月末に続いて再び、中国軍のSU27戦闘機が航空自衛隊のYS11EB電子測定機と海上自衛隊のOP3C観測機に約30~45㍍まで異常接近した。
東・南シナ海での中国の横暴の抑制に向け、日本が東南アジア各国との協調を図るためには集団的自衛権の行使を容認することが必要である。米国だけでなく、他の国々とりわけ東南アジア諸国との行使が、現実性を帯びている。この点を忘れてはならない。
(6月13日付社説)