拉致再調査、全被害者の帰国につなげよ
スウェーデンのストックホルムで開かれた日朝協議で拉致問題が動き出した。北朝鮮が「拉致問題は解決済み」としていた従来の立場から「日本人に関する全ての問題を解決する」との立場に転換したからだ。北朝鮮は再調査のための特別委員会を設置し、調査状況を日本に報告することを約束した。また、生存する被害者らが確認された場合、帰国させる方向で日本側と協議するという。
どこまで本気なのか
日本政府は見返りに、調査開始時点で経済制裁を一部解除することになった。今度こそ北朝鮮が誠意ある調査を行い、拉致被害者全員の帰国につなげることを求めたい。
しかし問題は、どこまで北朝鮮が本気であるかだ。2004年に当時の小泉純一郎首相の再訪朝を受けて北朝鮮は再調査に応じたものの、横田めぐみさんの遺骨として示された骨から別人のDNAが検出された。今度の再調査は10年ぶりとなるが、ずさんさと不誠意の目立つ北朝鮮の調査はどれだけ信頼できるか今なお疑問を拭えない。日本側は厳しく監視すべきだ。
北朝鮮の転換の背景には、食料難と国際的孤立があろう。金正恩第1書記は今年1月の「新年の辞」で、農業開発を緊急の課題として「全力投球」する決意を表明したが、2月中旬からの干ばつで麦やジャガイモに被害が出ていると伝えられる。
今回の合意は日米韓の連携を乱し、日本から支援を獲得して国際的孤立の打開を図る狙いがあるとみられる。昨年12月の張成沢元国防副委員長の粛清以来、張氏とのパイプが太かった中国との関係が悪化し、北朝鮮は孤立気味であった。好戦的態度のため、韓国との関係は悪化する一方だ。そこで孤立から脱却する“突破口”として日本に擦り寄ってきたとみていい。
合意の特色の一つは「1945年前後に北朝鮮域内で死亡した日本人の遺骨および墓地」の調査が含まれていることだ。2008年の日朝合意では再調査の対象は「全ての拉致被害者」だったが、今回は日本側の主張が受け入れられて「全ての日本人」に拡大された。
このことは歓迎される。北朝鮮領内の日本人の遺骨は約2万柱とされる。遺骨収集が実施されれば、日本から間接的に「人道支援」の名目で資金が流れ込むのを期待しているのだろう。
拉致問題で我々が求めるのは全被害者の帰国であり、それ以外はあり得ない。北朝鮮が再調査に乗り出したことは、そのためのスタートにすぎない。
合意には「再調査の状況を日本側に随時通報する」ことが盛り込まれた。だが、日本側には進展状況を具体的に精査する方法はない。
北朝鮮による拉致は国際社会で周知の事実である。日本は絶えず拉致の非人道性を訴え、正確な再調査報告が行われるよう北朝鮮への圧力を高めていく必要がある。
米韓との連携忘れるな
北朝鮮は核兵器開発を続け、核実験やミサイル発射で国際社会に脅威を与えている。対北外交を進める上で、わが国は米国や韓国との連携を忘れてはならない。
(5月31日付社説)