中国の目に余る強硬姿勢に対抗を
安倍晋三首相はきょう、シンガポールで開かれるアジア安全保障会議で基調講演を行う。日本の安全保障の取り組みを国際社会に説明、とりわけ東南アジア諸国連合(ASEAN)の安全保障体制を支援していく姿勢を表明し、中国の海洋進出を牽制(けんせい)する。
自衛隊機に異常接近
オバマ米大統領は4月、日韓などアジア4カ国を歴訪し、アジア太平洋へのリバランス(再均衡)政策を再確認した。その後の中国の強硬姿勢には目に余るものがある。
東シナ海上空では先日、中国軍のSU27戦闘機が海上自衛隊のOP3C観測機に約50㍍、航空自衛隊のYS11EB電子測定機に約30㍍まで異常接近した。中国機はミサイルを搭載していたという。
中国側は「自衛隊機がロシアとの合同軍事演習を妨害したためだ」と主張しているが、このような事実はなく、中国機の行為は国際常識に反する危険極まりない挑発だ。自衛隊機の情報収集は以前から行われており、しかも公海上の活動で日本側には何の問題もない。地域の緊張を高めるような行動は決して許されない。
一方南シナ海では、中国がベトナムなどと領有権を争う西沙(英語名パラセル)諸島で石油掘削作業を始め、現場に派遣されたベトナム船に中国船が体当たりや放水を行ってベトナム側に負傷者が出ている。ベトナム漁船が中国漁船の体当たりで沈没する事件も起きた。フィリピンなどと領有権争いをしている南沙(英語名スプラトリー)諸島でも、中国は岩礁に滑走路を建設しているとみられる。
東シナ海と南シナ海でそれぞれ中国の脅威にさらされている日本と東南アジア諸国との連携強化が求められる。アジア安保会議は、そのための絶好の機会と言えよう。
同会議は英国のシンクタンク国際戦略研究所(IISS)が主催。地域安全保障枠組の設立を目的として設置され、2002年の第1回会議から毎年、シンガポールのシャングリラホテルで開催されている。
安倍首相は昨年1年間にASEAN加盟10カ国のすべてを訪問し、対ASEAN外交の本格的取り組みをアピールした。今回の会議では、ASEANが中国と協議している「行動規範」の早期策定に向けて支援を表明する。
こうした会議の場で、中国を牽制するために必要なのは「国際法による支配」「力による現状変更に反対」という至極当然の原則をくどいほど繰り返すことだ。首相は効果的な発信に努めてほしい。
日米同盟強化の確認を
中国の習近平国家主席は、このほど上海で開かれた「アジア相互協力信頼醸成会議(CICA)」首脳会議で「アジアの安全はアジアの国民によって守られなければならない」と述べ、「米国抜き」のアジア安全保障の枠組み構築に向け主導権を握る意向を示した。
アジア安保会議には、米国のヘーゲル国防長官も出席する。地域の平和と安定のため、日米同盟強化を確認することも不可欠だ。
(5月30日付社説)