横田夫妻面会、北への「対話」と「圧力」継続を
北朝鮮に拉致された横田めぐみさんの両親である滋さん、早紀江さん夫妻が、めぐみさんの娘のキム・ウンギョンさんとモンゴルで面会した。記者会見では、ウンギョンさん、そして横田さん夫妻にはひ孫になるウンギョンさんの娘と会えた喜びを語った。
モンゴルで孫とひ孫に
久しぶりに見る横田さん夫妻の笑顔だった。ウンギョンさんの存在が明らかになったのは11年余り前のこと。しかし、平壌での面会は拉致問題の幕引きを図る北朝鮮に利用されることは明らかだった。ウンギョンさんから「北朝鮮に会いに来てください」というメッセージも届けられたが、祖父母として会いたい気持ちを抑えてきた。その気持ちは察するに余りある。
今回は、日朝両国の政府間の非公式協議で第三国での面会にこぎ着けた。しかし、拉致問題の全面的解決、すなわち真相の解明と被害者全員の帰国につながるかどうかは未知数だ。
早紀江さんも、ひ孫の姿がめぐみさんに重なって涙が出たと語り、「なぜめぐみがこの場にいないのかと思い、それが一番つらかった」と漏らした。
北朝鮮が第三国で横田さん夫妻とウンギョンさんらとの面会を実現させた背景には、なお「めぐみさん死亡」を認めさせ、幕引きを図りたい思惑も見え隠れする。だが、北朝鮮が融和的姿勢を示し、日朝関係の改善を望んでいることも確かだ。
金正恩体制への移行の中で経済的困窮はさらに深まり、国民の様々な不満も鬱積(うっせき)している。さらに、これまで中国とのパイプ役を務めてきた張成沢氏の処刑と張派の粛清で、中朝関係に影が差しているとの見方もある。日本としては、これを一つの機会と捉えて、拉致問題解決に向け、今後も北朝鮮に対する「対話」と「圧力」を継続させていく必要がある。
折しもきょうから中国の瀋陽で、日本赤十字社と朝鮮赤十字会の再会談が開かれる。両政府の関係者も同席する。第2次大戦後に北朝鮮に残された日本人遺骨問題が議題だが、日本政府としては、2012年11月以来途絶えている局長級の正式な政府間協議の再開につなげたい。
一方、「圧力」については、制裁措置の継続とともに国際世論への訴えを強化すべきだ。国連人権理事会の国際調査委員会は、外国人拉致や政治収容所での拷問、処刑など北朝鮮の人権侵害を「人道に対する罪」と告発する報告書を提出した。先日ジュネーブで開かれた同理事会で、日本政府代表の一人として初めて証言した拉致被害者家族会の飯塚繁雄代表が「全被害者が家族の元に帰れるよう皆さまの一層の努力をお願いする」と訴えた。
同調査委のカービー委員長は、北朝鮮の人権問題を国際刑事裁判所(ICC)に付託するよう提案。日本政府などは、安保理にICCへの付託や人権調査の継続を求める決議案を作成し、採択を目指している。
「拉致」と「核」を念頭に
北朝鮮をめぐっては、拉致問題のほかに核問題がある。日本政府は、その両方を念頭に「対話」と「圧力」を継続していくべきだ。
(3月19日付社説)