社会全体で特殊詐欺対策の強化を
主に電話を使い、現金をだまし取る「特殊詐欺」の昨年の被害総額が486億9325万円に上った。過去最悪だった2012年の約364億円から33・6%の増加だ。
こうした卑劣な犯罪を防ぐには、社会全体で対策を強化する必要がある。
「手渡し」の詐取が増加
被害額を手口別で見ると、うその儲け話を持ち掛ける「金融商品取引名目」が約176億円で最も多い。
身内を装って助けを求める「おれおれ詐欺」は約170億円で、統計が残る04年以降で2番目の多さ。「架空請求詐欺」や「ギャンブル必勝法名目」も12年の2倍以上だ。
また、金融機関が現金自動預払機(ATM)の1日利用限度額を引き下げたことなどを背景に、犯行グループが詐取金を受け取る手段は「手渡し」が「振り込み」を初めて上回った。このほか、レターパックや宅配便を使った「現金送付」もある。いったん減少した「おれおれ詐欺」の被害額が再び増加しているのも、こうした手口の変化の影響があろう。
「おれおれ詐欺」1件当たりの被害額は、振り込みが約200万円であるのに対し、手渡しは約400万円、現金送付は約630万円に達している。手渡しの場合、現金の受け取り役に少年を使うケースもある。啓発を強化すべきだ。
警察庁は「危険を実感していない国民もまだ多い」と分析している。特に「おれおれ詐欺」は親子の情愛を利用した犯罪であり、警戒が必要だ。レターパックなどで現金を送ることは法律で禁じられており、このように求められたら詐欺だと考えて間違いない。
ただ、被害者の大多数は高齢者だ。被害を防ぐには、本人の注意とともに周囲の見守りが欠かせない。
注目したいのは昨年、金融機関などが様子のおかしい客への声掛けによって防いだ被害額が約193億円に上ったことだ。この金額は12年の2倍以上に上る。今後も社会全体で、こうした取り組みを強化することが求められる。
犯行グループから電話を受けた人が、だまされたふりをして警察に通報し、メンバーの検挙につながったケースもある。特殊詐欺をなくすため、このように一人ひとりが積極的に協力してほしい。
昨年の特殊詐欺の特徴の一つは、南関東に集中していた発生地域が、大阪など都市部を中心に西日本まで広がったことだ。南関東では「おれおれ詐欺」が中心だが、大阪では還付金やギャンブル必勝法の詐欺が多い。また、犯行グループの多くが活動拠点としている東京へのアクセスが便利な地域では、詐取金を手渡しで、そうでない地域では振り込みや現金送付で受け取るケースが目立つという。地域ごとの傾向に応じた対策も必要だろう。
卑劣な犯罪を許すな
特殊詐欺では新しい手口が次々と登場する。しかし、主に高齢者を標的とした卑劣な犯罪は決して許されない。社会全体で高齢者を守り、被害を防ぐ決意を新たにしたい。
(2月13日付社説)