STAP幹細胞、再生医療につなげたい発見
理化学研究所発生・再生科学総合研究センターの小保方晴子研究ユニットリーダーらは、マウスの細胞を弱酸性の溶液に浸して刺激を与えることで、さまざまな器官になり得る万能細胞を作製し、「刺激惹起(じゃっき)性多能性獲得(STAP)幹細胞」と名付けた。生命の謎解明に生かし、再生医療につなげたい。
刺激で万能性を得る
これまで万能細胞には胚性幹細胞(ES細胞)や山中伸弥京都大教授らが作った人工多能性幹細胞(iPS細胞)があったが、これらの細胞の作製には遺伝子操作などが必要だった。STAP幹細胞の場合、外部からの刺激を加えるだけである。
受精卵はあらゆる細胞になる能力を持つが、血液や神経、筋肉などそれぞれの細胞に分化した後は、外から刺激を与えても元に戻らないと考えられてきた。STAP幹細胞は定説を大きく覆したことになり、画期的な発見である。
小保方さんが「刺激を加えて万能細胞を作る」という発想を得たのは2008年。組織や臓器に成長する幹細胞を集めるため、小さい細胞を細い管に通して選別する作業中、「管を通すという刺激で幹細胞ができるのではないか」と着想し研究を進めてきた。
発生生物学の権威で、ノーベル賞候補の呼び声が高い浅島誠・産業技術総合研究所幹細胞工学研究センター長は「両生類のイモリは足などを切っても再生するし、人間でも肝臓はある程度再生する。体の中には臓器ごとに幹細胞があるほか、(特定の役割を果たすように)分化した細胞でも初期化する性質があると考えられ、今回の研究はこのことを見事に証明した」と、高く評価している。
ただ、未解明な部分も多い。例えば動物の体内で酸性になったり、熱が加わったりしても細胞は初期化されないし、逆に初期化されてしまえば体内の秩序が破壊されてしまう。体内の細胞の在り方が決定され、微妙に制御されるメカニズムなどの追究が必要だ。
わが国は、発生生物学や再生医療につながる学問分野に伝統があり、人材の層も厚い。小保方さんの共同研究者で、世界初のクローンマウスを作った若山照彦・山梨大教授(元理研チームリーダー)の指導や、発生・再生科学総合研究センターのこれまでの成果が今回の発見を促した。小保方さんのような女性研究者の活躍を期待したい。
また応用面でもSTAP幹細胞はiPS細胞より短期間で効率良く作られ、がん化の可能性も低いと見られる。しかし人間の細胞でも作製が可能か、また安全性はどうなのかなど、実用化に向けてはいくつも解決すべき課題があり、それ相当の期間が必要だ。
政府は一層の研究支援を
現在、再生医療を含む生命科学の分野は、世界の研究者が横一線になって研究を進め、激烈な競争を展開。各国家が威信をかけて、実績づくりに協力し、資金援助している。日本政府は科学技術イノベーションを推進すべき重点項目の一つに再生医療を掲げている。研究を支援し、生命科学発展への取り組みを後押しすべきだ。
(2月2日付社説)