米中首脳電話会談、バイデン氏は強硬姿勢貫け


 バイデン米大統領が中国の習近平国家主席と電話会談し、中国による人権弾圧や台湾への圧力強化などに懸念を表明した。バイデン氏はトランプ前政権の対中強硬姿勢を踏襲するとともに、同盟国との連携強化で対中包囲網を形成すべきだ。

地域の安定乱す中国

 バイデン氏は習氏に、日本政府が推進する「自由で開かれたインド太平洋」の維持が「優先事項」だと主張した。日本やオーストラリア、インドなどとの協力で中国に対抗することを明確にしたものだ。

 これに対し、習氏は「共にアジア太平洋地域の平和と安定を守るべきだ」と訴えた。しかし、地域の安定を乱しているのは中国に他ならない。南シナ海で中国が独自に設定する境界線「九段線」に関しては、オランダ・ハーグの仲裁裁判所が「法的根拠はない」との判断を下しているにもかかわらず、この判決を無視し、南シナ海の軍事拠点化を進めている。

 バイデン氏は中国による香港の弾圧強化、新疆ウイグル自治区での人権侵害、台湾への威圧的態度などに懸念を表明した。習氏は米中関係の改善を呼び掛ける一方、バイデン氏の懸念については、中国の主権や領土に関わる「核心的利益」として断じて譲歩しない態度を示した。だが、このことも地域の不安定要因となっている。

 習氏は台湾統一に向け、武力行使も辞さないとの強硬姿勢で臨んでいる。「台湾有事は日本有事」であり、台湾侵攻が現実のものとなれば日本の安全にも深刻な影響を与えよう。沖縄県・尖閣諸島周辺では中国海警船の領海侵入が繰り返されている。日米台の一層の関係強化が求められよう。

 バイデン氏は中国を「最も深刻な競争相手」と見なし、「強い立場」で臨むとしている。中国の強権統治や覇権主義に対して毅然(きぜん)とした姿勢を示していること自体は評価したい。

 ただ、こうした対中強硬路線を貫くことができるか不安は残る。バイデン氏は、温暖化対策などを念頭に「国益にかなうのであれば、中国と連携する用意がある」と表明している。こうした面から対抗姿勢が崩れる恐れもある。

 トランプ政権が打ち出した中国政府系教育機関「孔子学院」への監視強化方針を、バイデン政権が撤回したことも懸念材料だ。孔子学院はスパイ活動に関わっている疑いで米当局の調査対象となっており、共和党議員からは方針撤回に対する強い批判の声が上がっている。

共産主義への危機感必要

 米国のポンペオ前国務長官は「中国共産党政権がマルクス・レーニン主義政権であることを忘れてはならない。習氏は、破綻した全体主義思想の真の信奉者だ」と糾弾した。だが党内にサンダース上院議員ら急進左派を抱える民主党のバイデン政権が、トランプ政権のように共産主義への強い危機感を抱いているかは不透明だ。

 米中新冷戦には、経済や安全保障だけでなく、イデオロギーでの対立の側面もあることを認識する必要がある。米国の同盟国である日本も、こうした認識を共有すべきだ。