拉致問題 一日も早く被害者帰国実現を


 北朝鮮による日本人拉致問題は、今年も大きな進展は見られなかった。9月に就任した菅義偉首相は、安倍晋三前首相に引き続き、拉致問題を「最重要課題」と位置付けている。一日も早く全ての拉致被害者の帰国を実現してほしい。

 菅首相「最重要課題」

 菅首相は10月の所信表明演説で「拉致問題は、政権の最重要課題だ」と強調。「条件を付けずに(北朝鮮の)金正恩(朝鮮労働党)委員長と直接向き合う決意だ」とも述べた。

 ただ、解決に向けた動きは見られないのが現状だ。新型コロナウイルス感染拡大への対応に追われる事情があるとしても、拉致問題解決も喫緊の課題であることを忘れてはならない。

 被害者の帰国を待ち続ける家族の高齢化が進んでいる。被害者の有本恵子さんの母、嘉代子さんが2月に、横田めぐみさんの父、滋さんが6月に、娘との対面を果たせないまま無念の死を遂げた。

 これで帰国していない被害者の親は、恵子さんの父、明弘さんとめぐみさんの母、早紀江さんの2人だけとなった。早紀江さんは、めぐみさんが拉致されてから43年の11月15日を前に、記者会見で「帰ってきて誰もいないという、違う悲しみを味わうことのないよう、早く救わなければいけない」と述べた。あまりにも悲痛な訴えである。

 だが、北朝鮮は拉致問題について「解決済み」の一点張りだ。北朝鮮の朝鮮中央通信は、加藤勝信官房長官が拉致問題啓発のための国際シンポジウムで、被害者について「一日も早い帰国を実現すべく、政府も総力を挙げて最大限の努力を続けている」と述べたことを非難し、「日本が騒ぎ立てる拉致問題はすでにすべて解決された問題だ」と論評した。被害者の人権を無視し、家族の思いを踏みにじる見解だと言わざるを得ない。

 これまでも北朝鮮は拉致問題に関して、不誠実極まりない態度を示してきた。めぐみさんの「遺骨」と称して別人のものを送り付けてきたこともある。2014年5月のストックホルム合意では、被害者の再調査を約束したが、日本に対する調査報告を行わず、16年2月に日本が核実験などを批判して独自制裁を発動したことに反発し、調査中止を宣言した。

 北朝鮮は本来であれば、すぐに謝罪し、全ての被害者を帰国させるべき立場のはずである。拉致問題の全面解決に動かない限り、国際社会から孤立し、衰退の一途をたどることを認識しなければならない。

 国連安全保障理事会は今月、北朝鮮の人権問題を非公式に協議。協議後、日米独など8カ国は共同声明を発表し、拉致問題について、被害者の「即時帰国」を含めできるだけ早期に全面的に解決するよう「強く促す」と強調した。日本は今後も北朝鮮に対する国際圧力強化を働き掛けていく必要がある。

 米韓との連携強めよ

 北朝鮮は核・ミサイル開発を続け、国際社会にとって大きな脅威となっている。

 日本は米国や韓国などとの連携を強め、拉致・核・ミサイル問題の包括的解決を実現しなければならない。